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61話・鈴の子守唄


 小さい体が、放り投げられてしまい。

黒頭巾の少女は顔面から、コンクリートの床にダイブした。


強く鼻を打ちつけ、少女は、グタリと寝そべる。


そんな彼女の元へ、慌ただしく駆け寄る少年。

「おねぇちゃん!」


少年はひたすら、彼女の体を揺すりながら。

「おねぇちゃん」と、健気に連呼する。


 そんな二人を…

まるで道具のように、ヘルツ博士は、見下しながら。

スムーズな手つきで、暗号キーを操作してゆく。


「抵抗しても、徒労に終わるよ」

「コレ(シャッター)は、鉄壁だからね。足掻くだけ、無駄さ」


「それじゃ、ごゆっくり」

そう博士が言い終わると、合鉄のシャッターが起動。

唯一の出口さえ、封じられてしまった。


一寸の光りもなく、コンクリートの部屋が、暗闇に包まれる。


 黒頭巾の少女は、呻きながらも、顔を上げた。

「ふぅ、大丈夫」


そう言って、少年に微笑むが、

小さな鼻から、血がボタボタと零れていた。


「おねぇちゃん、鼻血が…」

少年の不安を察し、彼女は、傷ついた鼻を手で隠した。


そして、パッと手を離してみると。

魔法のような速さで、彼女の鼻血は止まっていた。


「ね?平気でしょ?」

鈴のような声で、少年を安心させてあげる。


少年は、彼女のお腹に、顔を埋めると。

「きっと、シュタハスさまが…天から、守ってくれるよね?」


シュタハスという…創造主に、助けを求めながら。

ただひたすら、瞳を閉じて、祈り続けた。


そんな、彼(少年)を、黒頭巾の少女は、見守ってあげた。

幼き心を、決して笑いはせず。

優しく、のんびりと、少年を抱いてあげる。


 だが、そんな間にも…

「シューゥー」という音が、コンクリートの部屋に流れてゆく。

その空気音と共に「緑の霧」が、部屋中に充満する。


この「緑の霧」こそ。

Pウイルス(プランターウイルス)の毒ガス形態。


あっという間に、緑色に染まる視界。

次第に、少年の様子が急変してゆく。


 少年は、苦しそうに咳き込みながら。

ガタガタと、全身を震わせる。


そんな彼を、少女は、体で受け止めてから。

毒ガスの中で、子守歌を唄ってあげる。


「白の花びら、舞い降りてえ~」

ゆらりと流れる子守歌、刻々と進む運命…


 そして…

少年の口から「緑の液体」が、姿を現した。

この液体こそ「感染者」の末路、生物でなくなった証。


遂に、感染者と化した少年…


「ガァアアアア!」


獣のように叫びながら。

彼女の腰へ、手を回すと。


ボッギィン!!


 常人離れした腕力で、細い腰をへし折った。

 

背骨が砕け、少女の口から、赤い血が溢れてゆく。


だが、それでも。

黒頭巾の少女は、動じることなく。


「枯れゆく夜道を、照らしてくう~」

子守唄を奏でながら、少年の全てを、抱きしめてあげる。



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