60話・創造主相手にも、マナーは大事?
ヘルツ博士は、ニタリと、頬を歪ませた。
目前には、頑丈な合鉄のシャッターがあり。
そのシャッターの端にて、何らかの装置があった。
装置の仕組みは、キー入力によるモノらしく。
力技でこじ開ける事は、恐らく不可能だろう。
博士は、流れるような手際で、暗号キーを入力する。
そして、ポチポチと、機械を操作しながら。
嫌味ったらしく、後ろの二人に話しかけた。
「君たちはね。偉大なるシュタハスの生贄になるんだよ。あ~あ、羨ましい」
上辺だけの言葉を並べながら、恐怖を煽る博士。
少年は震えながら、黒頭巾の少女に、しがみついている。
彼女の方は、怯える少年を庇いながら。
哀れみの視線で、博士の背を眺めていた。
そんな黄金の瞳(少女の視線)に、気づかぬまま。
ご機嫌のように、博士が、シャッターを起動させた。
暗号キーが入力され、シャッターの扉が開かれてゆく。
二人に向かって、ヌメリと、博士が手招きする。
「ようこそ、創世記の始まりへ」
もはや、この男(ヘルツ博士)は、狂人そのもの。
狂気の顔つきには、正気の欠片も感じられない。
そんな恐怖をまえに、少年は、涙を浮かべてしまい。
黒頭巾の背後に隠れ、小さな体を震わせた。
その拒絶反応に、博士の怒りが沸騰する。
「シュタハスの前で、漏らすのか?!クソガキがッ」
子供相手に、手を挙げようとする、立派な大人…
だが、黒頭巾の少女が、細い手を広げ。
大人(博士)の暴力から、少年を守ってあげた。
「おねぇちゃん…」
彼女の…温かな背が、少年に勇気を分けてくれる。
「シュタハスさまは、お前なんか!」
少年は力一杯、意地汚い大人を睨んだ。
「ぜったいに、助けない!」
この小さな勇気に、博士は、荒々しく応えてみせた。
「たすける…だと?ちがうなぁ」
そして、彼女の襟首を乱暴に掴む。
「創造主を、降臨させるのさあ!」
少女の鼻先まで、博士は顔を近づけると。
舐め回すかのように、不気味に笑う。
だが、彼女(黒頭巾の少女)は、微塵も取り乱さず。
じっと、沈黙を貫いてゆく。
反応の薄い相手に、博士は「チッ」と、舌打ちしてから。
黒頭巾の少女を、ゴミのように、シャッターのむこうへポイ捨てした。




