54話・モンスターだって、手を貸すよ?
アントスは、驚きながらも。
灰色のゴブリンへと、視線をやった。
「奴ら、毒ガスを、ぶっぱするってよ」
そう説明しながら、ゴブリンが、何かを投げ渡してくる。
その「何か」を受け取ると。
アントスは、警戒しながら、相手の考えを探った。
「ガスマスク…どうして?」
敵である筈の「人間」に、道具を渡すのか?
灰色ゴブリンは、やれやれと、呆れながら。
「あの『お方』の…ご命令だかんなぁ」
あやふやな理由に、不快感を覚えるアントス。
「誰なんだ?ソイツは?」
「さあて、ね…」
ゴブリンは、話を誤魔化し、ニタリと口を歪ませると。
「ご覧の通り、オレは、偉大なるゴブリンさまだ」
聞いてもいないのに、勝手に自己紹介する。
「名前は~、あ~そうだなぁ。まあ、いいかあ『レ二ズ』で」
いい加減に、自らを「レ二ズ」と名乗り。
「そんで、あっちのデカ尻クモが…」
ゴブリンのレ二ズは、巨大クモを指し、説明を続ける。
「ワイズだ。図体のわりにゃ、逃げ足だけは、達者なヤツだ」
こうして説明が続く中。
アントスは、焦りでソワソワしていた。
今この瞬間にも、あの二人(少女と少年)が、どんな目に遭っているのか…
もう二度と、家族を失ったときの如く、手遅れになるのはご免だから。
彼の不安を、察してくれたのか?
レ二ズから、一つ提案してくる。
「この洞窟はバカ広い。足じゃ、間に合わねえ。『乗り物』が必要だ」
ここでレ二ズは、とある案を思いつく。
巨大クモ「ワイズ」の背に呼びかけた。
「ソイツは、とっくに逝ってらぁ!ほら、出番だぞ!こっちこいや!」
ワイズ(巨大クモ)の方は。
実のところ、撃たれた「老人」の治療を試みており。
決して、老人を、喰おうなどとは…考えていない。
老人の胸には風穴、大量の血が溢れてくる。
ワイズは、自分のクモの糸を、包帯のようにして。
なんとか止血を、試みるのだが。
もうすでに、老人の心臓は、停止していた。
ワイズは、レ二ズから呼ばれて。
見知らぬ男…アントスの存在に気づく。
この男は見るからに、モブ(雑魚)なのだが。
間違いない、「この男」だと…
巨大クモのワイズは、内の底から実感した。
ワイズは、息絶えた老人に。
「眠れ、ただ『穏やか』に」とだけ、言い残してから。
ただの一般人の元へと赴く。




