48・帰ってきた「破壊と烈火」
大きな影が、夕焼けの地を覆い尽くしてゆく。
影の形は、大きな二枚翼。
灼熱の熱気が、空気を沸騰させ。
乾いた空気の中で、皆が唾を飲み込んだ。
「ドラ…ゴ…ン?」
一人の新兵が、表情を蒼白にする。
その圧倒的な存在を。
彼らはただ、呆然と見上げる事しかできない。
ドラゴンが、ゆっくりと翼を羽ばたかせながら。
まっすぐ、深淵洞窟にへと降りてくる。
ゆっくりと、間近になってゆく、その姿を見て…物乞いの男が叫んだ。
「はっ!破壊と烈火の主だぁ!おお、偉大なる主よ!」
物乞いの男が、興奮しながら、ドラゴンへと手を伸ばす。
また、アントスも察していた。
数日前、ドレッド平原にて、遭遇した。
「破壊と烈火のドラゴン」と、このドラゴンが、全く同じ存在なのだと。
『どうして、こんなところに?』
最悪な存在との再会に。
アントスの頬に、嫌な汗が流れてゆく。
破壊と烈火のドラゴンは。
燃え滾る眼で、有象無象(人々)を見渡すと。
その標的を、囚人たちへと移した。
ドラゴンの視線から。
ヘルツ博士がいち早く、相手の思惑に気づく。
「ヤツの目的は、囚人だ!」
さっきまでの温厚さはなく、怒鳴り声で命令をしてくる。
「生贄を、収容所に運べ!最悪、始末してもいい」
博士の冷酷な命令。
兵士たちが無慈悲に、アントスたちを拘束してくる。
「おら、さっさと歩け!ブチ殺すぞ」
兵士たちは、苛立ちながら、囚人たちを脅してきた。
物乞いの男が、弱々しく言い返す。
「助けてくれるんじゃ…ないのか?」
そんな無力な相手に対し。
兵士は「フンッ」と、鼻で嘲笑った。
そして、物乞いの男に、銃口を合わせると。
無慈悲に、かつ作業的に。
いとも簡単に、引き金をひいた。
ズドォン!
一発の銃声が、響き渡り。
赤(血)の波紋が、地面に広がってゆく。
いとも簡単に、撃たれてしまい。
物乞いの男は、ゴミのように、崩れ落ちた。