45話・鼻歌を唄い、そのときを待つ
「スピナルぅ~にぃ♪還りさぁ~くぅ~♪」
ヘルツ博士は、口ずさみながら。
洞窟の外で、馬車の到着を待っていた。
どうやら、今の彼(ヘルツ博士)は、すっかり上機嫌らしい。
また、数百人もの兵士たちが、並んでおり。
その先頭には、軍服の老人が、指揮を握っている。
辺りの空気は、不気味なまでに沈黙し。
木の騒めきすら、聞こえてこない。
鳥たちは隠れたまま、森の奥にて身を潜め。
小動物の気配など、欠片もなかった。
あまりにも静かだった為。
馬車の音が、すぐに耳に入ってきた。
歯車(馬車)の音がしてきてから。
一人の兵士が、命令を求めて、軍服の老人へと駆けよった。
「作戦どおり。収容所へ…指示しますか?」
指令を求める兵士。
軍服の老人は、険しい表情のまま、一つ頷く。
彼(軍服の老人)の許可が下り。
兵士は敬礼すると、部下を数人、引き連れて、『収容所』のある洞穴へ足を進めた。
やがて、歯車の音が止まると。
囚人を乗せた馬車が、この深淵洞窟に到着する。
馬に乗っていた兵士は、慣れた動作で、地に降りてから。
荷車の側面を、数回ノックしてみせる。
外からのノックは、荷車の中にいる、囚人たちにも聞こえていた。
そして、アントスたち(囚人)を、監視していた兵士が。
レバーのような取手を握り、ゆっくりと下した。
ガチャンッゴン、という…扉が開く音と共に。
夕暮れの日差しが、荷車の中へ、射しこんでくる。
オレンジ色(夕暮れ)の明りが、視界を覆い。
時の経過が、アントスの身に染みる。
もう、夕方だって?!
マシュルクにいた時は、真夜中だったのに…
捕まってから、どのくらいの時間が、過ぎたのだろうか?
ただ、分かるのは。
危険に、巻き込まれていることだけ。
アントスも含め、囚人たちは皆、不安な様子だが。
そんな中でも。
黒頭巾の少女は、少年の手を、優しく握ってあげていた。
少年も必死に、彼女の手にしがみつきながら。
一生懸命、涙をこらえている。




