44話・シュタハスが…助けてくれる?
アントスの意識が戻ると。
ガスマスクの兵士が、視界に入った。
『コイツら…よくもっ!』
妻が射殺される光景が、フラッシュバックの如く流れる。
アントスの胸に、沸々と煮えたぎる怒り。
今すぐ、コイツら(兵士たち)をっ!
殺してやろうと、立ち上がる瞬間。
誰かが、彼の肩に手をやり、その暴走を止めた。
「そのシーン(展開)は、まだ早いよ…」
聞き覚えのある、小さな鈴のような声。
その声に引かれ、横を向くと。
黒頭巾の少女が、彼の隣に座っていた。
二人(アントスと少女)の視線が交わる。
そして…
「ふぅ」
少女は、小さく呟いてから。
怯える少年を、優しく抱き寄せ、包み込んであげる。
そんな光景を見ていると。
アントスの緊張が、少しずつ和らいでゆく。
だって、その様は、穏やかな母親のようだったから。
まだ、8歳の少年は。
彼女の細い腕の中で、震えていた。
「こわいよ」
彼女は、少年の頭を、優しく撫でてあげる。
「大丈夫、まだ…『打ち切り』じゃないから」
独特な言葉で、少年を励まそうとする。
上目遣いで、彼(少年)が聞いた。
「ボク…たすかるの?」
彼女は、何も言わない。
ただ優しく、少年の頭を撫でてあげるだけ。
少年は、彼女の胸に、顔をうずめると。
震えながら、ギュッと、しがみついた。
「ぜったい、ぜったい『シュタハス』が。守ってくれるよねっ…」
「そう…だね」
そう返す、彼女の横顔は、どこか虚しそうだった…
荷車の中は、静まり返り。
ガタゴト、ガタゴト、と揺れる音しかなく。
こんな静寂の中で、アントスは、『怒りと憎しみ』を抑えつける。
じっと、息子の…妻の…無念を、胸の奥に抱えながら。
横目で、こっそりと、兵士たちを睨みつける。
そんな視線に、気づかぬまま。
二人の兵士は、淡々と連絡を交わしていた。
「もうすぐ着くな。『深淵洞窟』に、連絡は通ってんのか?」
「ああ、博士直々に、お出迎えだとよ」
時、オレンジの夕暮れ。
アントスたちを、乗せた馬車は、もうすぐ「深淵洞窟」に到着する。




