42話・彼らからすれば…人間の方が、狂っている
レ二ズは、細い指先で、一つの洞穴を指した。
その洞穴は、北側に設けられ。
おもに『収容所』の役目を担っていた。
つまり、北側の洞穴は。
連れてきた「囚人」を、隔離する為にある。
レ二ズは、細い指で、円を描きながら。
寄せ集めた、『収容所』の情報を口にする。
「間違いねぇ。ありゃ、ガス兵器だなぁ」
「ガス?」
ワイズは「ガス」という単語に、不快感を抱いた。
新しい情報を、レ二ズが、噛み砕いて説明する。
「ようするに、人間サマの新兵器ってことよ」
新型のウイルス兵器…
「感染じゃ、飽き足らず。毒ガスなんて…」
沸々と、ワイズの中で、熱いモノがたぎる。
「ああ、イカれてんな」
対象的に、このゴブリン(レ二ズ)は冷静で。
偵察した情報を、ひたすら並べている。
「兵士どもが、でっかい缶を担いでな。収容所に、降りていったんだよ」
きっと『ドラム缶』が、ガス兵器の正体に違いなく。
「収容所の中は、コンクリートに覆われている。毒ガスは、外にゃあ漏れない」
つまり、外への損害もなく。
囚人だけに、ガスを浴びせられるのだ。
囚人を生贄にする、残酷な実験。
怒りを噛みしめながら、ワイズは呟く。
「何とかしないと。『あの方』の危機だ」
緊張する相方を、レ二ズは、ポンッと軽く叩く。
「まっ、計画どおり。気軽にいこうや」
二人(レ二ズとワイズ)の頭上には。
小さな枝が一本、ぶら下がっており。
その枝にて、小さな子グモが、待機していた。
ワイズは囁くよう、子グモに命令する。
「芽がでた。仲間に『オレンジ』と伝えろ…」
親クモ(ワイズ)から命令を受け、俊敏に飛び出してゆく子グモ。
子グモは、木から木へと移動して、森の奥に消えていった。