3話・誰宛の手紙?
平穏なる時のなか…
リオスは一人、手紙を書いていた。
「よし」
ゆっくりと、文字を並べてゆく内に。
やがて、手紙が書き終わり…とりあえず一休み。
温かな空気が、彼の眠気を誘ってきた。
やがて、瞼が重くなり、もうろうとする意識。
エルフ製の羽ペンを、机の上へと置いてから。
彼は穏やかに、体の力を解いた。
すると、このとき。
館内の放送が、一時の平穏を妨げる。
『直ちに、重騎兵は集結。繰り返す、ただちに…』
『重騎兵』と聞いて…
リオスは「アイツもかぁ」と、ふと思った。
まあ、彼は一般兵ゆえに、集結命令に従う必要はない。
だから、再び眠ろうとしたのだが。
扉が勢いよく開かれ、安息の意識が、引き戻された。
どうやら、誰かが入って来たみたいだ。
「よお、旦那。さぼりか?」
その者は…合鉄の鎧を纏った、巨大な騎士だった。
鉄壁の鎧は、余りにも大きく。
その姿こそ、まさしく…鉄の巨兵。
重騎兵の「ブルーメン」だ…
彼は、重騎兵のベテランで。
リオスの旧友でもあった…
「そんな所かな。お前も、くつろぐか?」
「ぜひとも、そうしたいが~」
歌うように答えながら、ブルーメンは、ゴソゴソと私物を探る。
「18番まで、集まれ~だとよ」
そう言って、ブルーメンは、自分の左肩を突く。
彼の左肩、銀のプレート(装甲)には…
『13』のナンバーが、記されており。
つまり彼は「No13」の重騎兵となる。
大きなブルーメンの背中へ。
彼は、何気なく問いかけた。
「忘れ物か?急がないと、遅刻するぞ」
「ああ、コレだよ。コレ」
軽い重騎兵は、木製の葉巻を取り出すと。
その葉巻を咥えて、豪快に煙を吸い込んだ。
「流石はエルフ産!体の隅々まで、癒されるぜ~」
「ああ、そう言えば」
思いついたように、ブルーメンが問いかける。
「彼女とは、どうだ?上手く、やっていけそうか?」
いやらしい笑みを浮かべる、ごついオジサン…
しまった!…と思い。
リオスは、机の「手紙」を、焦るように隠した。
「かっ関係ないだろ!はやく、いけよ」
彼の初々しい反応に。
葉巻をくわえながら、微笑む老兵。
「あれぇ~誰宛の手紙かなぁ?」
「ほら、いけって」と、そっぽを向くリオス。
「あいよ~13番、重騎兵。いきます~」
ブルーメンは、ふざけているものの。
「大丈夫さリオス」
「きっと、最高の未来がくるからよ」
誰よりも、リオスの「幸せ」を祝福してくれた。
「…ありがとう。ブルーメン」
騒がしい重騎兵が去った後。
ガランとした兵舎に、再び静寂が戻ってくる。
ふと思えば、ずっと…
手紙の内容で、あれこれ悩んでいた。
そのお陰で、あまり寝られなかったし。
手紙を書き終えた安心感が、徐々に眠気に変わってゆく。
リオスは肩の力を解くと、静かに瞼を閉じた。
基本、一般兵の出番は、殆ど無くて…呼ばれるのは「戦闘時」のみ。
この研究所では…
これまで、戦闘と呼べるモノは無かったし。
きっと、危険が迫る事はない筈だ。
「やっと、マシュルクに…帰れる…」
心地よい眠りに落ち、静かな寝言を呟いた。