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38話・満月と黄金の夜

 その鈴のような声に惹かれて。

アントスは思わず、後ろへ振り向いた。


そこには、黒い頭巾に、黒のローブ…

全身、黒ずくめの少女がいて。


テーブルの上に、ゆったりと座っている。

まるで、自分の席だと、言わんばかりに。


 彼女の姿に、アントスは、見覚えがあった。

たしか、集会所(始まりのバケツ亭)に入店した時…

団長のディアトロとぶつかって、転倒した「あの少女」。


「きみ…は…」

一体、何者なのか?アントスが訊こうとしたとき。


 少女の瞳が、頭巾の奥から、こちらを見てくる。

キラリと輝く、黄金の瞳…

心を見透かしたような視線に、アントスは緊張してしまう。


だが、この緊張は、恐怖による感情ではなく。

異次元の存在を前にした、「不思議な」感覚に近い。


不思議な感覚に吞まれ、言葉を失うアントス。

黒頭巾の少女も、何をする訳でもなく、ずっと黙っているだけ。


時が止まったように、部屋が静まり返り。

静寂の中にて、不思議な感覚が、緊張の紐を解いてゆく。


 だが、しかし…

「ギィヤァアアアアアア!」

妻(感染者)の叫びが、静かな空気を一蹴した。


妻は、緑の液体を、まき散らしながら。

『息子の死骸』を、踏み潰しながら、襲いかかってくる。


その殺意を、背中で察し。

アントスは、ビクッと、背中を強張らせた。


狂気の牙は、アントスの背中へ。

アントスは抵抗せず、夫として、現実を受け入れた。


黒頭巾の少女は、テーブルに座ったまま。

この一家の最期を、ゆっくりと、傍観するのみ。

黄金の瞳で、その閉幕(最後)を、見届けようとしていた。


妻の口から、緑の液体が溢れ。

「ガァァ!ナァラァァァ!ガァ!」

涙のような、緑の液体が、一粒流れていった。


『二人とも、いま行くよ』

最後の一瞬を噛みしめながら、アントスは思いだした。


三人で笑い合った、「かけがえのない日々」を。


何よりも大切だった、「当たり前の日々」を。


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