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29・家族のために…「今」を生きる

 アントスは、戦う術を持ち合わせていない。

だとしても、彼女リピスだけは、守り通さねばならない。


「リピスさん!逃げましょう!」

アントスは、リピスの手を掴むと、逃げ道を探すが。


辺り一面が、感染者たちに包囲されてしまい。

前、後、右左…

あらゆる方向から、殺意が突き刺さってきて。

絶望的な展開に、思考さえも凍りついてしまう。


もう、逃げ道など、何処にもないのだ。


アントスは、自分の無力さを、噛みしめながら。

残酷な現実をまえに、呆然と立ち尽くした。


その一瞬の隙に…

死角から、二体の感染者が、アントスへ奇襲をかける。


アントスは、身の危険を察すると、覚悟を決めた。

狂気の牙が、鼻の先にまで迫ってきて。

妻と息子の笑顔が、フラッシュバックしてくる。


景色がゆったりと、流れてゆき。


ゆっくりと動く時のなかで、アントスは…

『二人とも、ごめんね』と。

大切な家族に、心から謝った。


 だが、そのとき、豪風が吹き荒れて。

狂気(感染者)から守るように、アントスを取り囲んだ。


風が暴れ回り、感染者たちを撃退してゆく。

そこには、風のメイスを掲げたリピスがいて。

彼女リピスは、風を操りながら、次々と感染者を薙ぎ払う。


リピスの力強さに、感染者たちの群れが崩れてゆき。

人混み(感染者たち)が、僅かに散らばってゆき。

人が一人、通れる程の、小さな隙間(抜け道)が現れた。


 リピスは、この僅かな希望(抜け道)を見逃さない。


アントスの背を押し、リピスが怒鳴りつけた。

「走って!!助けを、呼んでくるのっ」


自分を置いてゆけ…と叫ぶ彼女リピスに、アントスは躊躇した、

リピスを置いて、自分だけ逃げるなど。

だとしても、リピスの決意は硬く。


「家族は…大切な人は?どうなるの!」


彼女リピスの声には、『大切な人の為に生きろ…』という、意味が込められており。

きっと、『助け』なんてモノも、求めていないのだろう。


アントスの家族の幸せを、心から願って…

たった一人、武器を握って、時間稼ぎをしているのだ。


「生きるのっ、走って!生きるのっ!」

リピスは暴君の如く、メイスを振り続ける。


「止まらないで、いって!」

アントスの…温かな家庭を、思い浮かべながら。


「いけぇッッッッッッ!」


鬼のような気迫で、アントスの迷いを蹴り飛ばした。


 その気迫に、圧されてしまい…

無意識に動きだす、アントスの体。


この時ほど、自分の足が、重いと感じた事がなく。

これほど辛い、「逃走」が、今まであっただろうか?


だが、だとしても…

振り返らず走って、生き延びねばならない。


リピスの決意を、溢さない為にも。

大切な人(家族)の為に、生き残るべきなのだから。


アントスは、重い足を、懸命に叩きながら。

一人戦うリピスを、囮にして…

ただ、今を生きるために。


ひたすら「生」に執着しながら、逃走していった。


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