22話・彼氏さんからの、お手紙まだ?
「そうだ、勇者の息子さんは元気?」
彼女の言う、勇者とは、息子の夢のことで。
アントスの息子は、8歳の男の子。
ヒーローが大好きで、将来の夢は勇者になることだ。
「相変わらずでず。僕のように、なりたいと…」
アントスは、目を伏せながら、落ち込んでしまう。
「多分、荷物もちと知られたら。ガッカリされるかも」
息子は、アントスを勇者と信じている。
ゆえに父親の本職が、雑用だと知れば、きっと幻滅するだろう。
そう考えると、ついナイーブな気分になってしまう。
リピスは、落ち込むアントスを、励ますように。
ツンっ、とアントスの鼻をつついた。
「ううん、むしろもっと、好かれるよ」
緑色の瞳が、まっすぐ正直に、アントスへと向けられる。
「息子さんはきっと、君を尊敬するから」
「でも、勿体ないなー」
リピスは、腰にある「疾風のメイス」に触れると。
「君には、才能があるのに」
その瞳を細めて、思い出を話しはじめる。
「ほら、君が初めて、現れたとき」
話は…アントスが、ディアトロ騎士団と出会い。
入団試験をする所まで、遡る。
試験の内容は、武器の技量を披露するという、シンプルなモノで。
団長のディアトロから、指示された通り、様々な武器を扱ったのだが。
剣、短剣、斧、槍、その他もろもろ。
結果は散々、アントスには何一つ、扱える武器がなかった。
そして試験の最後。
リピスの武器「疾風のメイス」を、駄目元で試す事になる。
このユニークウェポン(疾風のメイス)は、使い手を選定する。
ゆえに、類い稀の者だけしか、使いこなせない。
実際、使い手のリピスでさえ。
疾風のメイスの本領を、「全ては」引き出せていなかった。
それなのに、疾風のメイスは…
アントスが握った途端、荒々しい暴風を解き放ったのだ。
暴風のせいで、辺り一面が滅茶苦茶。
事が終えた頃には、道具や武器が、無残に散乱していた。
迷惑な事故に、呆れる団員たち。
だが、疾風のメイスの使い手である、リピスだけは違った。
彼女は唖然と驚きながら、ずっとアントスを見ていた。
最終的に、アントスの試験は、散々な結果で終わり。
「厄介者」の烙印を押されて、追い出される筈だったのだが…
アントスの才能を察したリピスが、何とかフォローをしてくれた。
その彼女の助力により、今こうして、首の皮一枚つながっているわけだ。
「あの試験では、迷惑をかけました」
申し訳ないと、謝罪をするアントス。
「ちがう!ちがうってば!」
リピスは、身振り手振りで、励まそうとするも。
才能の話となると、アントスが落ち込んで、終わってしまうのだ。
「そうだ!」閃いたように、リピスの表情が輝く。
「また『コレ』に挑戦しようよ。私が教えるから」
彼女は笑いながら、腰のメイスを叩いてみせる。
その笑顔はきっと、アントスの『戦士としての力』を、期待しているのだろう。
だが、アントスは、その申し出を断った。
「また、事故をしたら…今度は、怪我をさせてしまうので」
ナイーブな返答に、リピスは「もう」と、頬を膨らませた。
「気を使いすぎ!本当『あの人』にそっくり」
『あの人』という言葉が出て、アントスは、しめた!と思った。
リピスの言う、『あの人』というのは、彼女の彼氏の事ゆえ。
自分の話題より、リピスが好きな話の方が、よっぽど良い。
話によると、リピスの彼氏さんは、軍人らしく。
軍の指令で、「開花の森」へ、出動しているらしい。
ゆえに、「手紙の文通」が、唯一の連絡手段になる。
彼氏からの手紙が、きっと待ち遠しいのだろう。
リピスはいつも、手紙の話題を喜ぶ。
「旦那さまから、お返事はどうです?」
旦那さま、というワードに、リピスは思わず、口からワインを吹き出してしまう。
そして、ゴホゴホ、とむせながら。
「まだ、そんな関係じゃ~」
高貴なるエルフの剣士は、すっかり照れてしまっている。
「ふぅ~ん、でもね」
リピスは、表情を躍らせながら。
「彼が帰ってきたら、婚約するのだぁ!」
一人の女性として、心の底から喜んだ。
嬉しい情報を聞いて。
つい、アントスも嬉しくなって、テンションが上がった。
「「やったぁ!」」
二人は、最高に盛り上がりながら、ピョンピョンと、ウサギのように飛び跳ねた。




