21話・エルフは、おにぎりを知らない?!
ホラを吹くディアトロに呆れて、リピスは溜め息をつくと。
倒れたアントスへ、ゆっくりと手を差し伸べた。
「災難だったね。ケガはない?」
彼女のグリーンの瞳に、アントスの心拍数も上がる。
「いっ…いえ、ご心配なく」
彼のいつもの様子に、リピスは安心しながら言葉を続ける。
「団長も、あんなだし、もう大丈夫」
そんな二人の横を、メイドの少女が、せっせと往復してゆく。
豪勢なターキー焼き、虹色のオードブル、色鮮やかなスープなど。
多種多様な料理たちが、ディアトロたちのテーブルに、詰まれてゆく。
ディアトロは、肉を食らいながら、嘘っぱちの武勇伝を披露している。
そんな団長の傍らで、ロイドとノエフも、食事をしているが。
迷惑そうな弓兵のロイド。
そして、魔術師のノエフは、グッタリと疲労していた。
一方、リピスは立ったまま、アントスの隣で、ワインを愉しんでいた。
彼女は適当に、ギャラリーを眺めながら。
雑用のアントスと、何気ない雑談を楽しんでいる。
「アントスくん。お腹すいてない?何か持ってこようか?」
「お気になさらず、持参しているので」
そう断ってアントスは、荷物の中から、小包を取り出した。
安っぽい布でできた小包。
大切そうに、ゆっくりと小包を開くと、その中には。
ビニールラップに包まれた、おにぎりが数個、並んでいた。
おにぎりなど、一般人にとっては、当たり前の食べ物だが。
高貴なエルフとは、一切無縁だろう。
リピスは、おにぎりを、視線を尖らせながら凝視する。
「たしか、オニィ、ギィーだっけ?」
独特な訛りで呟きながら、首を傾げるエルフの剣士。
彼女の呆けた反応に、アントスはついつい笑ってしまう。
「もし、よければ」アントスは、おにぎりを一個、リピスに手渡した。
パチパチと、まばたきをするリピス。
「え!もらっていいの?!」
アントスは微笑みながら、楽しそうに頷いた。
リピスは警戒しながら、ビニールラップを、慎重につついてみる。
「これは、ミラーシールド?…一体どんな術が?」
可笑しなリアクションを、見物しながら、アントスはそっと教えてあげる。
「そんな、大それた品物では。食材を保存する為のモノですよ」
少しずつアドバイスを貰いながら。
恐る恐る、ビニールラップをはがすリピス。
そして、ラップを取ると、白いおにぎりが現れ。
白く小さな手で、おにぎりを持ち。
お米の塊に、ゆっくりと噛ぶりつく。
「すごい…これって」
リピスは緑の瞳を見開いて、あまりの衝撃に唸った。
しかし、片手におにぎり、片手にワインとは、なんと珍妙な組み合わせだろうか?
「貴方の手料理?」
「いえ、妻の十八番でして」
なるほど、とリピスは頷くと。
「きっと素敵な、お方なんでしょうね」
彼女はまるで、自分の事のように、喜んでくれた。
おにぎりが無くなった後。
二人は、家族話で盛り上がっていた。
リピスはいつも、アントスの家族話を、喜んで聞いていた。
その話は、どうとも無い、ありふれた一家の日常。
だが、リピスはいつも、家族の話に興味深々だった。