20話・アイテムを盗まれた!
周りから戦士たちが、ザワつきながら、近づいてくる。
「どんなモンスターのヘイト(注意)を、集めるっていう…」
「ああ、『科学』とかいう。謎の技術で作られたらしいぜ」
特殊な「時限式の花火弾」花火ナパーム…起爆時間を、自在に操作できるという、高性能なナパーム弾。
その道具には、アントスにも、身覚えがあった。
アイテムをダンジョンで回収した場合、基本、荷持ちの彼が運ぶのだが。
希少な花火ナパームだけは、団長のディアトロが持つことになった。
アントスとしても、重要なアイテムを請け負うのは、責任を感じてしまうし。
正直な所、持たずに済んで、ほっとしていた。
自慢する団長に、リピスとロイドは、呆れて何も言わない。
ノエフは疲れているのか?ただグッタリと、しているだけだ。
元気なのは、ディアトロぐらいで、注目を浴びて、すっかりその気になっていた。
だが…ご自慢の『花火ナパーム』は、一向に姿を現さない。
次第に、歓声が笑い声になり、ギャラリーの数も減ってゆく。
ディアトロは焦りの表情を浮かべながら、ポーチを必死に探る。
「くっ、どこいった?!」
大男が、疑うように言った。
「兄者、まことに手に入れたのか?」
ギクリ、とディアトロは体を強張らせ、周りを必死に見渡す。
その視線は、アントスに止まり、ギロリと光った。
怒りを露わにしながら、ディアトロは、アントスへ近づいていく。
「盗みやがったな!雑用の分際で!」
ディアトロは叫びながら、アントスの胸ぐらを掴む。
どうやら、荷物持ちである彼が、盗んだと思ったらしい。
突拍子もない言いがかりに、アントスは混乱した。
ディアトロの気迫に圧され、口が震えてしまう。
「あっ…あの」
モゴモゴと、口ごもるアントス。
そんな彼を前に、更にディアトロは怒りを燃やす。
「テメェ、人のモノを盗っておいて…」
怒りが限界に達し、ディアトロの大きな拳が、振り上げられる。
アントスは、殴られるのを覚悟して、目をつむる。
何もしてないのに、こんな仕打ちを受けるなんて。
ドラゴンと言い、盗人と言い、今日は厄日だな…と、アントスは思った。
目を閉じてから、覚悟したとき…
「やめなさいよ!彼のせいじゃないでしょ!」
リピスが、ディアトロの止めに入った。
彼女の声で、ディアトロの拳が、ピタリと止まる。
「コイツ以外に、犯人がいるのかよ?!」
大きな拳は、止まってはいるが、すぐにでも飛んできそうだ。
「ドラゴンのとき、落としたのよ。自業自得じゃない」
「ドラゴン」という、ワードが出てきて、ドッとギャラリーが集まってくる。
またしても、人々の視線が集まり、ディアトロは、閃いたように顔を上げた。
そして、どうでも良いように、アントスを投げ捨てると。
「『破壊と烈火のドラゴン』と、刃を交えたが!口ほどにも無かったぜ!」
ドラゴンの話題に、ギャラリーの人数が、どんとん増えてゆく。
ギャラリーの人混みは、さっきの話題の比にならなかった。
大男の視線も、いとも容易く、羨望の眼差しに変わっている。
「ドレッド平原の件か。まさか、兄者が関与していたとは!」
大男に続くよう、人々の歓声が上がってゆく。
「スゲェ、英雄だ」「ドラゴンを追い払ったのか」「たった四人で?まじかよ」
破壊と烈火のドラゴンが、ドレッド平原に降りた事は。
すでに、街中にまで、広まっていたが。
ドラゴンが帰っていった理由は、実際に立ち会った、ディアトロ一行しか知らない。
ゆえに、こうした嘘でも、皆が鵜呑みにしているわけだ。
ディアトロたちは、ドラゴンと戦ってなどいない。
ただ、恐怖に震えて、唖然としていただけ。
ディアトロは、でっち上げの、武勇伝を語り始める。




