19話・雑用の席なんか、ねぇから!
拳が飛び交ったり、食べ物が飛んできたり、歩くだけでも一苦労だ。
アントスは荷物を庇いながら、必死に体を動かすが。
避けようと動く度に、人にぶつかってしまう。
まあ、ぶつかったとしても。
相手は屈強な戦士なので、ビクともしないのだが。
先頭のディアトロは、人混みの中を、ズカズカと進んでゆく。
他のメンバー(三人)も、遅れずについてゆく。
アントスも何とか、最後尾にしがみついていた。
このとき…
ディアトロの足に、ポンッという、柔らかな感触があった。
どうやら、ディアトロは「何か小さいモノ」に、ぶつかったらしいが。
そんな、カスのような感触など、大男が気にするものか。
だが、最後尾のアントスだけは、その感触の「正体」を分かっていた。
人混みの中で、アントスは、そっと屈み込むと。
その視線の先には…小さな子供がいた。
黒い頭巾をかぶり、黒のローブを着た、黒一色の姿。
小さな体は、尻もちをつき、すっかり黙り込んでいた。
この子の表情は、黒頭巾に隠されているので。
何を考えているのか?よく分からない。
こんな小さな体で、ディアトロという大男と、ぶつかったのだ。
ひょっとして、ケガをしたのかも。
心配したアントスは、ゆっくりと手を差し伸べてみる。
だが、この子は、彼の手を取らずに、一人で立ち上がると。
「ふぅ」と、鈴のような声で、小さく呟いてから。
そのまま背をむけて、人混みの奥へと消えていった。
どうやら、ケガは無いらしい。
アントスは一安心すると、急いでメンバーたちを追い掛ける。
ようやく彼が、追いついた頃には。
もうすでに、ディアトロたちは、テーブルについていた。
席は4人分、ディアトロ、ノエフ、ロイド、リピス。
当然、雑用のアントスの席など、ある筈がない。
これも雑用の務め…
騎士団のメンバーが、食事を終えるまで、立ちっぱなしで「待機」というわけだ。
無論、アントスにとっても、「待機」は日常なので、何とも思わない。
いつも通り、少し離れた距離に、荷物を降ろす。
ディアトロの注文が、次々と連なり。
メイドは笑顔で、伝票を記録してゆき。
注文が終わると、メイドは一礼して、厨房へ向かった。
そのメイドと、すれ違うように、一人の大男が近づいてくる。
顔は古傷だらけで、分厚い毛皮の鎧。
そして、背中には大剣があった。
大剣は大きく、岩石そのものを、背負っているようだ。
「よォ、兄者!」
この大男は、見かけによらず、明るく友好的だ。
どうやら彼(大男)は、ディアトロの顔なじみらしい。
ディアトロも喜んで、反応をかえすと。
周りを気にせず、大声で笑いながら、雑談を楽しんでいる。
ディアトロは笑いながら、席を立つと、友(大男)の肩を叩く。
「そうだ、兄弟。戦利品があるぜ」
自慢げに鼻を鳴らしながら、懐のポーチに手を突っ込む。
「ダンジョンで、キャプチャーしたブツでな。こいつァ、すげぇぞ!」
どうやら、見せびらかして、自慢したいモノがあるらしい。
「おもしろい!それは、如何なるモノか?!」
嬉しいリアクションを返してくる、大男。
ゴソゴソと、ポーチを探りながら、ディアトロは語りはじめる。
「重騎兵団って、いるだろ?奴らのお墨付きさ」
重騎兵というワードに、大男は、すっかり興奮しているようだ。
それも当然、重騎兵は、ドラゴンと渡り合えるほど、優れた先鋭部隊なのだから。
そんな重騎兵の「道具」なのだから。
期待されるのも、当然だろう。
「ほら、花火ナパームってあったろ?」
『花火ナパーム』という名が上がり。
周りにいる戦士たちの視線が一斉に、ディアトロへと集まった。




