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閉幕・ただの荷物持ち


 アントスは、背負っている荷物を降ろして。


墓場の片隅にある「小さな墓石」の前に立った。


この墓石は、とっても小さく貧相で…

表面には苔が生え「時」にすら、忘れられているみだいだ。


 その質素な墓石を、遠い視線で見つめてみる。


「ただいま…」


そして、一人の父親として。


安らかに眠る「妻と息子」へ、やさしく話しかけてみた。


アントスの家族は、もういない………

 

 パンデミック事件によって「遠い所」に、いってしまったから。


 それはきっと、リアルで無慈悲な現実だろう。

でも、だとしても…

一人の父親として、穏やかに微笑んでみせた。




 そんな虚しいアントスの背後に「誰か」の気配がした。


 振り返るとそこには…二本のアホ毛と、癖っ気の強い白髪。


「シュタハス…きみかい?」


 白髪と同様、純白のロングドレス。

そして、白いストール(マフラー)を首にかけており。

長いストールは、彼女の足元にまで着いている。


「アントス、元気そうだね」


 聞き覚えのある、鈴のような声に、少し懐かしさを感じた。


「ああ、つぎの仕事が決まったんだ」


彼の返事に、シュタハスは、クスリ…と小さく笑った。


「また、荷物もち?」


その穏やかさに釣られて、アントスの頬も緩む。


「ぼくの、天職だからね」


「そう…」


 彼女シュタハスは、のんびりと呟き。

その懐…ストール(マフラー)の奥から「何か」を取り出した…


ソレは…たった一つの…「白い花」


白い花を、哀れな父親アントスに見せると。

彼女は「ハッキリ」と、こう言った。


「この花は、貴方の『家族』を、生き返らせる」


小さな手で、白い花を回しながら。


「貴方にあげる…」


「この世界を、救った貴方(英雄)に」


 きっと、彼女の言う事は、紛れもない真実。

なぜならば…

この「白い花」は、不思議なオーラに、溢れているからだ。


 ゆえに、この花を受け取れば。

アントスの「宝物」が、帰ってくるのである。


 これは、最終最後のチャンス…


アントスは一人の父として…


シュタハスの「黄金の瞳」を、真っ直ぐに見据えた。

そして、たった一言のみ。


「いらない」


 自ら…家族との「別れ」を選んだのだ。


それはきっと、愚かな選択なのかもしれない。

だとしても「この選択」をした一時。


 どこか遠くから…大好きだった、息子の笑顔が聞こえてきて…


平凡なアントスの背中を、元気一杯に押してくれた。


 この選択は、間違いなのかもしれない。

それでもきっと、アントスは「後悔」などしないだろう…


 彼の「最後の答え」に、シュタハスは、口を挟むことなく。


 その小さな背中を、アントスに向けて…

自らの胸へ、白い手を乗せた。


「アントス…忘れないで…」


穏やかな風が、二本のアホ毛を、のんびりと揺らす。


「世界が、貴方に、気づかなくても」


クルリ…と一つ回って「平凡な男」に微笑みかける。


「私はつねに、あなたの傍にいるから」



 彼女の「想い」を受け取り、力強く頷くアントス…


「うん」




 そして…最期の会話が幕を閉じ…彼女はいつものように呟く。


「ふぅ」



やがて、彼女の体が崩れてゆき。

崩れる破片から、黄金の花弁が散ってゆく。


 黄金の花弁は、光りとなり…その輝きすらも、消えていった。


きっと、再生の主「シュタハス」は、この世界から去り。

とおい…遠い「不思議な世界」に、帰っていったのだろう。



 最後に一人…アントスだけが残された。


彼は、いつものように「重い荷物」を背負い込んでから。


 家族の眠る、墓石に背を向けた。


そして…


ただの男として…


ただの荷物持ちとして…



今日もまた、長い道のりを…歩いてゆく…




                  





これまで、本当にありがとう!

ではまた!次の物語で、会いましょう!


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