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174話・帰るところ


 道の隅々まで、沢山の屋台が並び。


どこもかしこも、人々の活気で賑わっていた。


 そんな中、貧乏臭い「荷物持ち」が一人…


自分の体と同じくらい、大きな荷物を背負いながら。

オロオロ…と、人混みの中を、不器用に進んでゆく。


 男の名は「アントス」。


 アントスは、重い荷物にバランスを奪われ。

そのまま体勢を崩してしまった。


 しかも…転んださきには。

高価な鎧と聖剣に身を纏った「正義の勇者」がいた。


「雑魚がッ!周り見ろよ!」


最強の勇者は、薄汚い虫けらに、罵声を浴びせると…

沢山の美女を連れながら、そのまま立ち去ってゆく。


 結局のところ。

パンデミック事件が過ぎ去り…平和な世界が、訪れたとしても。

 アントスには、どこにも居場所はなく。

誰一人として、彼(雑魚)の存在など眼中にない。




 なんとか、人混みを潜り抜け。

アントスは、西区のとある場所に着いた。


 ここは「マシュルク墓地」…

街の片隅にある、小さな墓場だった。


 木葉の絨毯に、墓石の列が並んでおり。


 祭りで賑やかな街と対照的に。

ここだけは、沈黙の静寂に包まれていた。

それもそうだろう…

「祝福の日」に、墓を訪れる者なんて、そうそういないから。


 だが、珍しいことに。

アントスの他にも、二人組の人影があった。

 その人達の耳は特徴的で。

一目見て、エルフ族だと…察しがついた。


一人は女性、もう一人は男性の、エルフの老夫婦。


 二人の肌には、シワがあって、年配である事が伺える。


 その二人(エルフの老夫婦)は、悲しみと共に目を伏せ。

「一個の墓石」にへと…手を合わせていた。


 アントスは、ゆっくりと…老夫婦の元へ歩み寄る。


そして…


「リピス殿の…親御さんでしょうか?」


囁くように、慎重に声を掛けてみた。


すると、男性の方が、ペコリと一礼してから。


「貴方が、娘と同じギルドの…」


「はい、リピス殿には、沢山の御恩がありまして」


「………そうですか」と、目を伏せる父親。


 悲観の空気が、淡々と流れてゆく。

「リピスの母親」は、ずっと俯いたまま…悲しみの涙を堪える。


 もはや「他人」であるアントスが、割り込める空気ではない。

だが、それでも…

アントスは、荷物の中から「とある物」を取り出した。


 ソレこそ「風のメイス」。


最後の時まで、アントスをサポートしてくれた…リピスの形見。


「これは、娘さんのモノです…」


 彼女リピスへの感謝と共に。

慎重に、慎重に…「風のメイス」を、老夫婦へと手渡した。


 唯一残された…娘の形見。

風のメイスを抱きしめ、リピスの母が泣き崩れた。

そんな寂しい背中を、リピスの父が、ポンポン…と叩いてあげる。


 この二人もまた、パンデミック事件によって、かけがえのないモノを奪われた。

部外者アントスは、この老夫婦に深く共感しながら。

噛みしめるように一礼して「別の墓石」へと向かう。


 その墓石は。


墓場の「隅の隅」…誰も気づかない、とっても小さな墓石だった。



次回にて、最終回になります。

皆さんに感謝!

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