168話・最後の一手は、静かに…
ついに「核」は、鼻の先…
この娘…マゼンタを討てば、フロラシオンは滅ぶだろう。
だが、対する彼女に殺意はなく。
蔦に包まれたマゼンタを、優しく抱きしめてあげた…
「ありがとう」
「私を…呼んでくれて」
優しく耳元で囁かれて、マゼンタの頬がピクリと動いた。
そして、触手の脅威が、彼女にまで忍び寄った。
触手たちは無音のまま、その白髪へ照準を定め。
ビュンッ!
狂気の触手が、目にも止まらぬ早さで飛んでくる。
その標準は一点、シュタハスの眉間へ…
だが、しかし…
触手は「ピタリ」と静止しており。
その白髪に、突き刺さる寸前…僅か数センチまえで…
まるで、糸が途切れたように。
完全に、時が静止したように。
ピタリ…と、紅の触手が停止した。
マゼンタは、彼女の腕の中で、涙を流した。
眠りながらも、流れてゆく「涙」は切なく。
マゼンタの首には「注射器」があって。
核である彼女は、シュタハスに注射を打たれていた。
注射器が「核」へと打たれたとき。
花壇のあらゆる場所にある…触手たちの様子が豹変。
獰猛なる紅の姿が、次々とくたびれてゆき。
数百…数千もの触手たちが、枯れた枝となって、地に倒れてゆく。
その沈黙と共に、フロラシオンも静寂に包まれ…
巨大な要塞は、動かぬ屍となった。
アントスを包囲していた、触手の大群も、惨めな藻屑と化し。
突然、相手の攻撃が静まり…彼は呆然としてしまう。
そして…
フロラシオンの全貌が、燃え尽きた「灰色」と変色。
空虚な「静寂」が…長かった「悲劇」の閉幕を語った。




