16話・スピナル童話
エルフの都…マシュルクのお城「ブラッド城」にて。
第二皇帝「ブラッド王」が、王室で頭を悩ませていた。
この王室は、幹部の居場所とは思えないほど、質素な内装で。
貴族らしい装飾は一切なかった。
机と椅子だって、どれも安物で。
最低限の仕事に、必要なモノしか揃っていない。
そして、彼の人柄を表しているのは、その服装。
地味な灰色のスーツに、黒のネクタイ。
ただの事務員のような恰好には、王の威厳も欠片もない。
だとしても彼は、市民やエルフに慕われており。
きっと皆、彼の生真面目さや謙虚さを、信頼しているのだろう。
ブラット王は、眉間にシワをよせながら、山積みの資料を読んでいる。
資料の内容はどれも、『研究所』に関するモノばかりで。
紙をめくる音が続く度、彼の表情が難しくなる。
今、彼が模索しているのは。
「研究所からの連絡が途絶えた」件について、で…
この件は、3か月ほど前から、苦戦している事件でもあった。
開花の森の「研究所」については、あまりにも謎が多く。
皇帝の地位にあるブラット王でさえ、情報不足に困っていた。
資料はあるのだが、一向に『研究所の失踪』の核心を掴めず。
ただ一つ…分かるのは、あそこ(研究所)で『シュタハス』の研究があったということ。
ブラッド王は、シュタハスの資料を、まじまじと見つめる。
すると、背後から青年の声が、問いかけてきた。
「『スピナル童話』…絵本ですか?」
鮮やかな金髪に尖った耳、その青年はエルフの者で。
窓からの日差しが、白銀の鎧を照らしていた。
青年の背中には、黄金の剣が納められ、神々しい輝きを放つ。
この姿こそ、エルフの聖剣士、天に選ばれし勇者。
エルフの青年は、後ろから絵本を覗き込むと。
「研究所の手がかりが、絵本に…?」
困惑する彼に、ブラット王は優しく言った。
「この童話を、知っているかい?」
「はい。お花畑の話ですよね」
その通り…と頷いて、ブラット王は訳を話してあげた。
「この本にさ。『聖なる華』が、登場するんだよね」
その「聖なる華」というワードに、少しだけ青年の表情が変わる。
「それって…伝達にあった」
彼(青年)の言う「伝達」とは。
研究所の連絡が、途絶えてから数日後…
突如、研究所から、送られてきた「最後のメッセージ」のことだ。
青年は緊張しながら、メッセージの文面を口にする。
「聖なる華が旅立つとき。変革の嵐が、吹き荒れるだろう…」
自ら呟き、さらに緊張する青年。
「大丈夫…」
青年を落ち着かせようと、ブラッド王は、ゆっくりと微笑むが。
王室のドアが、激しく開かれて、緊張が走っていく。
激しく開かれた扉の向こうから、一人の兵士が飛び出してくる。
兵士は激しく荒げながら、血相を変えている。
恐怖に染まった、その表情に、エルフの青年は動揺してしまう。
「ぼうどぅ!暴動です!」
声を震わせ、荒々しく叫ぶ兵士。
緊張するその肩に、ポンと、優しく手が置かれる。
「力を抜いて、ほら深呼吸」
ブラッド王は、やさしく微笑み、兵士を落ち着かせた。