164話・子供に「殺意」を向けられるか?
フロラシオンの内部は、彼の予想を超えていた。
前も後ろも、蔦だらけ…
チビチビと…狭い隙間を進んでゆく。
すると、ようやく。
僅かな空洞の先にて、赤いシュルエット(人影)が見えた。
その「真紅」に惹かれながらも。
アントスは、強く注射器を握りしめ…
周りの蔦を払いながら、慎重に歩み寄っていく。
そんな彼の到着を、待っていたのは。
たった一人の「赤髪の少女」だった…
その体格は、シュタハスと似通っており。
この娘こそが、彼女の話にあった34号…「マゼンタ」だと。
一目、赤髪を見て…アントスは察する。
マゼンタはずっと、目を閉じたまま…
まるで、静寂の時に眠る、眠り姫のようだった。
そして…
眠る彼女の体を、蔦たちが包み込み。
首から上だけが、露わとなっている。
彼女の存在を前に、アントスは確信した…
この子こそが、「核」なのだ…と。
彼の役目は「核」を破壊すること。
それはすなわち、この娘を「殺す」ということ…
「殺す?」相手は、子供なのに?
そう意識した途端…注射を握る右手から、嫌な汗が流れた。
自分の体が拒否反応を起こし、手が動いてくれない。
もはや、眠る少女をまえに。
平凡な男は、完全に躊躇していた。
だが、こうして迷っている内にも。
シュタハスは更に、窮地に立たされており…
実際、フロラシオンの内部から、外の様子は何となく分かる。
そして、彼の目に、シュタハスの傷つく姿が映された。
触手の猛攻に、慈悲は無し…
彼女の体が、ズタズタに裂かれてゆく。
「うぅ…あっ!ぐぅッ」
容赦のない攻撃に、シュタハスの体が崩れて…
凶悪な触手たちが、隙だらけの体を縛り付けた。
まるで、ハムのように…両手両足を、締め上げられてしまう。
強靭な拘束によって、シュタハスは体の力を奪われ。
彼女の手から「風のメイス」が、ポトリ…と零れ落ちた。
アントスは、彼女の危機に、居ても立っても居られなかった