163話・激戦!フロラシオン!
シュタハスは、逃げも隠れもせず…
堂々と、広大な相手の前に立つ。
そして…
「マゼンタァァァ!」
響き渡るほどの大声で「誰か」の名を叫んだ。
「オオカミさんだよぉ!」
彼女の声は、天井にまで響き渡り。
触手の敵意が全て、シュタハス一点に集中してゆく。
彼女の大声が、相手の意識を奪い。
小さな彼女一人に…触手の猛攻が、降り注いだ。
その様は、吹き荒れる、豪雨のようで…
第三者の勧誘を、一切受け入れる事はない。
対する彼女も一応、風のメイスを構えてはいるが…
アントス以上に、武器の扱いが「不得意」らしく。
触手の攻撃を、防ぐことすらできず…一方的に、攻撃されていた。
弾丸のような触手は、留まることをしらず。
腕や足、肩に胴体と…
彼女の体に、次々と風穴を開けてゆく。
シュタハスの体から、血が飛び散って…
赤い血液が、白い花壇へ降り注いだ。
全身、火傷をしたような…
身を焼く激痛を、たった一人で背負い。
呻き声さえも、懸命に抑え込んでいた。
「ウッ……!ウぅ………あっ」
だとしても…
彼女の「治癒力」だって、後れを取っておらず。
一つ、また一つ、と貫かれる度。
傷口が一瞬で塞がり(再生して)、決して倒れる事は無かった。
フロラシオンの意識は、完全に逸れており…
この隙をついて、アントスは。
側面から、フロラシオンの懐に、忍び寄ってゆく。
どうやら、アントスは…敵の眼中にすらないらしく。
蔦の山の脇に、潜り込むのは…そう難しくなかった。
偉大に立ち聳える、蔦の塔…
下から見上げても、その果ては見えない。
そして…
その蔦の壁には…人一人分の「隙間」があった。
彼は、その隙間が「核」に繋がっていると…信じて。
右手にある「注射器」を、強く握り絞め。
まるで鼠の如く、隙間の奥へと、忍び込んでゆく。