162話・あなた『だけ』は大丈夫
不安がる少女に、彼女は優しく微笑んだ。
震える少女の手を、フンワリと包み込んで…
まるで、おまじないのように、のんびりと語りかけてあげる。
「大丈夫…あなた『だけ』は、大丈夫」
その温かな「力強さ」が、少女の緊張をほぐしてくれて。
小さな勇気で精一杯、頷いてみせた。
「つよい子…だね」
そして、少女の黒髪を撫でながら。
シュタハスは「とある一点」を指さした。
その先にあるのは「小さな洞穴」…
子供一人…やっと通れそうな「秘密の抜け道」。
かつて、シュタハスを外に逃がした…唯一の穴。
「この先の希望は、貴方が摘み取るの…」
「さあ、お行きなさい」
彼女の言葉が、少女に「小さな」勇気をくれる。
だから、黒髪の少女は…力一杯、頷いてみせると。
綺麗な三つ編みを、揺らしながら、元気いっぱい走り出した。
そして、その小さい体で、洞穴(抜け道)へと飛び込み。
外の世界で待っている「希望」を目指して…
泥だらけになりながら、暗い穴の中を、這い進んでいった。
少女の脱出を見守ってから…
「心配して」力んでいた彼女の肩から力が抜ける。
そんな彼女の横で、アントスはポッケを探ると。
汗で湿った、生ぬるい右手で「注射器」を握った。
細い手で、風のメイスを抱えるシュタハス…
この白髪の少女は、武器を持たせても、どこか頼りない。
彼女は「深く」息を吸うと…
「きっ、緊張してないっ…からね?」
さっきの余裕は、どこにいったのか?
その様子は、落ち着きなく…凡人よりも緊張していた。
そんな彼女であっても。
アントスの意志は変わらないし…この少女に「全ての信頼」を預けていた。
「シュタハス…君を信じる……」
「だから」と彼は、黄金の瞳を真っすぐに見つめる。
「僕のことも…信じてくれ」
この決意はきっと。
世界にとっては、ちっぽけな勇気だろう。
だが、シュタハスは…「信頼」の価値を知っていた。
ゆえに…
「べつに、貴方だけじゃない…」
「私は…あらゆる存在を『平等』に、信頼しているの」
白い髪の毛が、静かに揺れて。
いつもの凛とした風貌で、彼に背を向けた。
「フロラシオンとのタイマン(一騎打ち)は任せて」
「アントス…あなたは、脇から忍び寄るの」
自分の家(アントスの家)で、初めて出会った時のように…
やんわりとした、鈴のような声で一つ呟く。
「ふぅ」
そして…
力強く、裸足の脚を踏み出して。
再生の主…シュタハスは、巨大な敵に、真正面から立ち向かう。




