159話・綿密なプラン
「さあ、開幕よ」
「タイトルは…うーん」
彼女は、少し考えこみ「ふぅ」と一間置く…そして。
「激戦!フロラシオン!」
その黄金の瞳を、輝かせながら…
幼稚なタイトル名を、発表してみせた。
微妙なネーミングセンスに、場の空気が静まり返る。
場の空気を誤魔化すように、アントスは咳払いすると。
「あんなデカいのと…戦うのかい?」
気持ちを切り替えて、作戦に耳を傾ける。
「そうよ」
「私と貴方…二人でね?」
さも当然かの如く…凛と答える、白髪の少女。
相手は、山の如く巨大な敵…
そのスケールは、ドームの建物を、簡単に覆いつくすほど。
しかも、殺意に満ちた「無数の触手」が蠢いており。
触手の力によって、あらゆるモノを切り裂き。
凄まじい「感染力」が、近寄る生命体に襲いかかる。
もはや相手は無敵…まさしく究極の存在。
二人とも、戦士でもないのに…
一体、どう立ち向かう、というのだろうか?
「どうやって、戦う?」
彼に当然の質問をされて…
シュタハスは、とある道具を、懐から出してみせた。
プラスチックの容器に、銀の針…
「ひっ!」
針の先端が光り、黒髪の少女が、怯えたように震える。
「大丈夫、怖がらないで…」
優しく少女を安心させると。
シュタハスは、針の先端を、ピンッと突いた。
この注射器は、子供たち(被検体)を「殺す」ためにある道具。
一体、フロラシオンと、何の関係があるのだろうか?
「ソレ(注射器)で、どうするのさ?」
「『無敵』という言葉があったら…ソレは、フロラシオンの事よ」
「でもね…」小さな手で、注射器を弄びながら。
「大いなる力には『弱点』が付きモノ」
弱点、という言葉に、僅かな希望が照らされる。
彼女はべつに、なんの勝算もなく、戦うつもりじゃないらしい。
きっと、シュタハスは「フロラシオン」に、詳しいはずだから。
攻略の為の…綿密な作戦を、準備しているに違いない。
「この注射をね」
その小さな口が「作戦の計画」を綴る。
「『核』に、打つの………以上」
綿密どころか、たった一行の作戦に…アントスは拍子抜けしてしまう。
「………おわり?」
「うん」