157話・遠いところから、助けにきた…
8章から、時間軸が戻り…6章からの続きになります。
遠い「昔話」が終わり…
彼女は、少女の黒髪から手を離した。
そして、いつものように一息つく。
「ふぅ」
「おまたせ」
綺麗な三つ編みが出来て、少女は表情を輝かせた。
だが、対象的に…
アントスの表情には、陰があった。
「それじゃあ…子供たちは、皆…」
「殺されて…しまったのかい?」
博士によって行われた…被検体(少女たち)の虐殺。
すると、彼女は、首を横に振ってみせた。
「ううん、それは違うよ?」
「私に、この娘…」
少女の黒髪を、優しく撫でながら「それに…」と言葉を続ける。
「『マゼンタ』も、生きているから」
過去の話にあった、赤髪の少女「マゼンタ」…
彼女は、博士の手によって、絞殺されたはず…だが。
シュタハスの説明によると、一時的な「昏睡状態」にあるらしい。
ただ、この時点では…
赤髪の少女「マゼンタ」が、今現在どこにいるのか?
彼女の口から発せられる事はなかった。
「過去の話」はどれも、凡人の想像を絶しており。
平凡な頭の中で、グルグルと思考が回る。
こんな小さな…女の子(白髪の少女)が?
再生を司る…幻想領域そのもの?
人類は勿論。
高貴なエルフ、凶悪なモンスター…
全ての者たちが信仰した…偉大なる理想郷?
だが…一つだけ、察した事がある。
それは「幻想領域・シュタハス」はきっと…
理論や理屈で、理解できないという事。
そして、黄金の瞳を持つ…この少女は。
遠い「異世界」から、この世界を「救い」に来たという事。
シュタハスは、少女の瞳を覗くと。
「自由は、貴方のモノ…」
まるで、母親のように、少女にささやいた。
「自由ってなに?シュタさま」
「うーん」
その純粋な問いに、シュタハスは、困ったように首を傾げる。
「花は…自分から、咲くでしょ?」
うん、と頷く少女。
「ソレと、同じことだよ…」
頭の上に「?」を浮かべる少女。
だが、アントスには何となく…
彼女の伝えたい事が分かった。
きっと、その言葉には。
自分の力で咲く花のように…
世間に縛られる事なく「生きよ」という意味が、込められているのだろう。