155話・とても「小さな」絶望の兆し
ヘルツが気づいた時には…
37号…シュタハスの姿は、とうに消え失せていた。
後に残されたのは、空虚な静寂と。
もう動かない「マゼンタ」だけだった。
「三十~七号!!」
血相を変えて、その数字を叫ぼうとも。
ウンとも、スンとも、返事はなかった。
白い絨毯で眠る、赤髪の少女…34号。
彼女もまた、治癒能力が保有しているはず。
なのに「首を絞められた」だけで…こうも簡単に、息絶えてしまった。
この矛盾に、ヘルツは気づいていない。
そして、純白の花弁たちが、マゼンタの死に反応してゆき。
踊るように散りながら、彼女の体を包み込んだ。
その光景はまるで、白い花弁が「意図的」に…彼女を守っているみたいだった。
マゼンタの遺体は、ヘルツの手により、花壇の下に埋められた。
やがて、そこには…
一輪の「真紅の華」の姿があった。
この「真紅の華」には、異次元の力があった。
その力は、常識や理屈など、通用しないスケールで…
ありとあらゆる生物を「突然変異」させる能力を宿していた。
変異のパターンは、対象によって様々だが。
「理性の損失」と「緑の液体による浸食」という共通点がある。
しかも「緑の液体」は、感染度が極めて高く。
生命体であれば…いかなる対象でも「感染」させる事ができる。
この発見こそまさに。
後に「Pウイルス(プランター・ウイルス)」の始まりだった。
ヘルツの「被検体の虐殺」は、一連の騒動となった。
だが、彼のコネクション(優遇)により、罰すら受ける事なく。
それからまた、数日の時が流れた頃。
「真紅の華」が、研究者の目に止まった。
彼ら(研究員)はこの時点で、「Pウイルス」の調査を進めており。
軍には極秘で、ウイルスの研究を進めていた。
そして…知らない風を装いながら、軍の連中に申し出る。
『謎の現象が起きた』と…
指定された箇所は、白い花壇にある…一本の木。
そこには「真紅の華」の姿が一つ。
当然、兵士たちは、何も知らない為。
この華へ、不用意に近づいてしまい。
一人、二人、三人と…
真紅の華(pウイルス)によって、人間性を奪われてしまった。
軍の上層部は、兵士の失踪に異変を感じると。
研究員のデマカセを疑う事なく…花壇の調査を始めた。
1番隊や2番隊、3番隊までも、先鋭の部隊が次々と消えてしまい。
切羽詰まった軍は、遂に「重騎兵」の隊を出動させた。




