154話・白髪と赤髪
被検体34号…「マゼンタ」は、その赤髪を揺らしながら。
仲間たちの絶望を背に、ひたすら走り続けた。
彼女は、シュタハスの手を掴み…
死に物狂いで「何か」から逃げていた。
シュタハスもまた、懸命に走ってはいるが。
「ふぅ、ふぅ…うッ」
脇腹を抑えながら、苦しそうに息を荒げている。
そんな頼りない主を、乱暴に引っ張るマゼンタ。
「シュタさま!がんばって!お願いッ」
やっとかっと走る二人の後を…
「聖なる心は~華にありぃ~」
気味の悪い、男の歌声が追い詰めてくる。
振り返ると、そこには。
「注射器」を構えたヘルツの姿があった。
たとえ幸運にも、この狂人から逃げられたとして…
結局のところ、施設のあちこちに兵士がいる。
ゆえに、単純に逃げても、拘束されるのが関の山。
が、しかし。
マゼンタの狙いは、秘密の「抜け道」にあった。
「抜け道」は、小さな木の後ろに隠れており。
わずかに開いた、空洞だった…
犠牲となった少女たちが…
希望を繋ぐように、ひたすら掘り続けた…「小さな穴」。
穴の大きさは、せいぜい子供一人分くらいの幅でしかない。
だとしても、この空洞は「外の世界」に繋がっており。
最後に残された…唯一の逃げ道なのである。
もう少しで「抜け道」に、手が届きそうなのに。
彼女の体力は、もう限界だった…
「ふぅ、置いて…いってぇ」
「もうすぐだよッがんばれ!」
マゼンタは、諦める主を強く励ます…が。
ガクリ…
シュタハスの膝から、力そのものが崩れ落ちてしまう。
この隙を前に、ヘルツの口元が、ニタリと歪んだ。
狂気と欲望に染まった手で、純白の髪を捕えようとする。
だが、その瞬間…
マゼンタの赤髪が、ヘルツの腹部に突撃した。
「おっ?!…うっ」
子供による全力の頭突きが、ヘルツの体を揺るがせる。
彼女の果敢な姿に、シュタハスは唖然としながら。
黄金の瞳にて、ヘルツの手から「注射器」が落ちるのを目視した…
ヘルツの方は、注射器の事など気にせず。
怒りに身を任せながら、マゼンタを乱暴に押し倒した。
「我らが、シュ~タハ~ス♪舞い降りるぅ~♪」
そして…
壊れたラジカセのように歌いながら。
彼女の細い首を、全力で締め上げてゆく。
シュタハスは、ハッとして、駆け寄ろうとする…だが。
「来ちゃダメ!いって、はやく!」
マゼンタの怒涛が、彼女の背中を突き飛ばした。
その威圧に圧されてしまい…黄金の瞳を「抜け道」へ向ける。
今回の話は、物語の冒頭と繋がっています。