149話・幻想に囚われた男
やがて、閃光は消え去って…
燃え盛る街と、人々の悲鳴が、ヘルツ少年を取り囲んでいた。
怒鳴り声や、悲鳴など、混沌とした空気が溢れてゆき。
意識が戻ると、ヘルツは一人、絵本を抱いていた。
空を見上げてみると、曇り雲が漂っている。
銀幕のスケートリンクも、真紅の彗星も…姿を消しており。
ドラゴンの姿は、どこにもなかった。
どうやら、ドラゴンを撃退したらしく…
壮絶な戦いの痕だけが、マシュルク(エルフの都)に残されていた。
兵士、戦士、勇者、エルフ…
一般人や子供までもが、大切な者の無事を祈り。
そして、絶望を抱きながら悲観した…
皆が一人一人、希望の為に奮闘している。
こんな中、たった一人…ヘルツ少年だけは、一歩たりとも動かず。
汚れのない純粋な瞳で、宝物(絵本)を抱きかかえる。
そして、彼は…この一時。
花々の踊りや豊かな花壇。
穏やかな笑顔と、太陽のような黄金の瞳。
それらを噛みしめるように、イメージしていた。
それから、十年の時が経った。
18歳になったヘルツは、幾多もの知識を蓄えた。
魔術や錬金術、兵器から宝具まで、何のその。
人々は彼を、天才と呼び、その才能に喜んで投資した。
たった18で、才能や権力までも手にしたが…
これらの力は全て「たった一つの世界」の為にあった。
そこはかつて、彼が迷い込んだ、幻想的な花の世界。
あの世界「シュタハス」に、旅立つ事…それがヘルツの全て。
そんな夢を叶えるため。
偉大なる才能を「シュタハス」の研究に捧げてゆく。
幻想領域・シュタハスの研究…
それは、明確な「呪い」であり、終わりのない「呪縛」だった。
来る日も来る日も、ヘルツは研究に取り憑かれ。
もうすっかり、あのとき出会った「白髪の少女」の存在を忘れていた。
この研究が始まって、あっという間に時が流れてゆき。
ヘルツは、一人の大人になる。
エルフ族の高度な技術によって、順調にマシュルクも復旧してゆき。
深く刻まれた災いの痕跡は、綺麗さっぱり拭い去られた。