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148話・ヘルツ少年


 そう言われて…

少年の鼓動が早くなる。

どうしてだか?分からない…ただ。

彼女の声はどこか、人間離れ…いや「生物離れ」していて。


 その温かな口調が。

まるで、世界の声のようにさえ、感じてしまったから。

どう答えればいいのか?

まだ、子供の彼には分からなかった。


 この世界は、美しく楽しい。

だが、元の世界に、帰りたい気持ちもある。

ゆえに、「白黒」二択選択は難しい…


 混乱し、迷う少年…

そんな彼の手を、白髪の少女が、優しく握ってくれた。

白いその手は、毛布のように柔らかく、太陽の温もりを帯びていた。


 純白の絨毯(花壇)にて、二人の足音が続く。


少年の手を握ったまま、ゆっくりと歩く少女。

そんな彼女を、見つめながら…

彼は、何度も何度も「ありがとう」と、感謝を伝えようとするが。

上手く言葉にできず、息を飲み込んでしまう。


 そして、あっという間に。


二人は「帰り道」のトンネルに辿り着いた。


トンネルの向こうから、白い閃光が輝き…

少年の帰りを、待ちわびていた。


 紐解かれるように、少年の手から、彼女の手が解れてゆき。

ついに「別れ」の時が訪れた。


少年は「帰りたくない」と駄々をこねた。

まだ、出会って間もないのに、もうお別れなんて。

幼い彼には、とても辛い現実だろう。


 白髪の少女は、対象的にのんびりと穏やかなまま。

その表情が、一体なにを考えているのか?想像もできないけれど…

彼はずっと、二人で一緒に、この世界を探検したかった。


だが、現実というモノは、そう簡単に願いを受け入れてくれない。


 トンネルの奥から、強引な風が手を伸ばし…

少年の小さな肩を、グイッと、引っ張った。

この引力によって、彼の体は、トンネルに吸い込まれてゆく。


 いともあっさりと、彼の体は、白い空間に放られて。

彼女の姿が、あっという間に遠ざかってゆく。


だとしても…

せめてもの「思い」を、伝えねばと確信した。


「へっ…ヘルツッ!ぼくの名前!」


 自分の名を、力一杯に叫ぶ…


「待ってて!また、この世界にっ!帰ってくるから!」


もう、純白の髪も、二本のアホ毛も、黄金の瞳も、遥か遠くへ消えてしまった。


だが、それでも…


「ボクを、待ってて!」


声が枯れるまで「ヘルツ少年」は叫び続けた。



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