145話・遠い昔話
アントスと少女は、とある場所に立ち止まった。
そこには、白いシャッターが待ち受け。
二人の到着に、シャッターが起動…
扉の向こうが、露わとなった。
解放された、その先には。
星の数ほどの小型パネルが、壁一面に飾られていた。
そして、ポツポツと点滅する、パネルの壁をバックにて…
ユラリ…と、二本のアホ毛が、優しいく揺れていた。
癖っ気の強い、純白の髪。
太陽のような、黄金の瞳。
「ふぅ…」
シュタハスは、いつものように一つ呟き。
優しく穏やかに、二人の到着を迎えた。
「は~す、は~す、しゅたは~す♪」
少女の歌声が、コントロール室に流れてゆく。
女の子は、チョコンと椅子に座り。
その黒髪を、シュタハスへ預けていた…
彼女は、子供用のヘアブラシを使って。
少女の髪を、ゆっくり整えてあげた。
優しい手際は、まるで母親のよう。
小さな背中を、アントスは、ボンヤリと眺めていた。
彼女には、聞きたい事が山ほどある。
Pウイルスの事…
シュタハスが、リピスの「風のメイス」を所有していた事…
過去の疑問が、頭の中で湧き出てくる…が。
この穏やかな一時が、焦りや、不安、さえも拭ってくれた。
少女の髪に、ブラシを走らせながら、シュタハスが口を開く。
「息子さん…いくつ?」
まさか息子の話題となり、アントスの感情が曇った。
もう、息子はいない…
妻も…
帰る場所すらも…
思い出すだけでも、胃が締めつけられそうだ。
だが、彼女の声から、悪意は感じられない。
ゆえに、アントスは、絞り出すように答えた。
「八歳だ…とても、やさしい子だったよ」
「そう…」
一時の沈黙が流れ。
シュタハスが、懐かしむように、ひっそりと喋り始めた。
「『あの子』にもかつて…そんな時があったの」
あの子?
息子と、同い年の子供が、他にいるのだろうか?
すると、白髪の少女は、遠い眼差しのまま…
「一人の少年」の話を始めた。
「むかしむかし…やんちゃな少年がいました」
今回にて、6章が完結になります。
つぎの章からは「前日譚」
物語が始まる前の話として、展開していきます。