144話・は~す♪は~す♪しゅ~たは~す♪
『コントロールまで…きなさい』
ここ(研究所)は初見だから。
「コントロール」とか…専門的な用語は、流石に困る。
「どこだよ?そこ…」
もうすでに、シュタハスの放送は終わり。
これ以上の情報は、教えて貰えなかった。
すると少女が、彼の足を軽く突いた。
「おじさん。わたし『コントロール室』知ってるよ」
「えっ?!き、きみが!」
そのリアクションが気に入ったのか?少女は笑顔で頷いた。
「ついてきて」
愉快にスキップしながら、少女は、破壊されたドアの奥へ進む。
アントスは困惑しながらも、その後に続いた。
「は~す♪は~す♪しゅ~たは~す♪」
薄暗い廊下にて、少女の歌が流れる。
彼女の小さな手を握りながら、アントスも並んで歩く。
廊下の有様は、地獄の底の底…
壁や床、視界一杯に、血痕が散らばっており。
人の死体で、床が埋め尽くされ、足場も殆どない。
死体の殆どは、喰い荒らされており。
バラバラの死骸に、人の原型は無かった。
鼻が曲がるような、死臭が漂う中でも。
この少女は、とっても元気だった。
「ねえ、きみ。一つだけ…いいかな?」
アントスは、優しく問いかけた。まるで、息子と話すみたいに…
「シュタハスって?」
正直、今となっても、あの黄金の瞳が。
『シュタハス』という存在が、ボンヤリとしか理解できない。
でも…この女の子なら、その答えを、知っているかもしれない。
すると、少女は「にぱァ」と笑って。
「友達だよー」
一寸の間もなく、太陽の笑顔を輝かせた。
のほほんとした返事、それが答えのような気がして。
アントスはそれ以上、過度な詮索はしなかった。
「は~す、はーす♪かえりさ~く♪」
愉快な歌声と、二つの足音が、しばらく続いてゆく。