143話・朽ちた装甲
機関銃の攻撃によって、相手(重騎士)は膝をついた。
大きな兜も粉々に散り、生の頭部が剥き出しになる。
このとき、丁度…
アントスの目に、相手(重騎士)の表情が映された。
この男(重騎兵)は、アントスと同い年位だった。
だとしても、アントスは、男の頭を潰すため…風のメイスを振り下ろした。
「おおおお!」
震える叫び声と一緒に、メイスが、男の頭上に襲いかかる。
が、しかし…
ピタリ、と…時が静止したように。
風のメイスは、頭の数センチ上で止まっていた。
決して、時が止まったのではない。
ただ、アントスが「寸止め」をしただけだ。
そして、風のメイスを、静かに引くと。
アントスは、重騎兵の男に、哀れみの視線を送った。
もうすでに、重騎兵の体は、くず鉄と化しており。
「13」と…記された肩は、ピクリとも動かない。
男(重騎士)の視線は空虚を眺め…意識の欠片すらない。
過ぎ去ってゆく脅威、力んでいた肩が和らいでゆく。
後に残されたのは…虚しい損失感。
助かったのは、この子(少女)だけ…
他の子供は皆…哀れな死体となって、液体の上に浮いていた。
小さな死体の山を見て、アントスは、激しい後悔を感じる。
すると、後ろから。
小さい手が、悩む男の裾を引っ張った。
アントスは、ゆっくり屈むと、少女に視線を合わせた。
「ごめん」
嘆くような謝罪に、少女は首を傾げる。
純粋なその瞳に、憎しみなんてモノはなく。
ただ、そこには、かつての息子同様、温かい「幼さ」があった。
ふと蘇る懐かしい感覚、穏やかな沈黙が流れてゆく。
すると、このとき。
聞き覚えのある、少女の声が、天井から響いてきた。
『ふぅ、調子はどう?』
どうやら、この声は…施設のスピーカーによる「放送」らしい。
鈴のような声が、研究所全体に流れていた。
「シュタハス!きみか?!」
ハッとして、彼女の名を口にするも。
シュタハスの返事は、斜め上のモノであった。
『つねに希望を見失わず、足掻き続けるかぎり…最後には救われる』
淡々と連なる放送、アントスは、ポカーンとしてしまった。