142話・風の力と才能
アントスは、少女を両手で抱きながら。
勢いのまま、思いっきり宙へ…その身を投げた
この現状に、少女は、ポカーンと呆けていた。
どうやらまだ、事の展開を、理解していないらしい。
だから、アントスは、決死の思いで声を上げる。
「にげてっ、はやく!」
こうしている間にも、重騎兵が距離を詰めてくる。
メラメラと燃える殺意が、アントスの背中に突き刺さってきた。
その殺意に対抗するべく…
彼は、腰にある武器(風のメイス)を引き抜いた。
せめて、この娘が逃げる…時間稼ぎを。
子供一人を庇いながら、重騎兵と戦う…という。
まさしく、絶望的な状況であった。
力の差があり過ぎる両者(重騎兵とアントス)。
その対立を、一つの「レンズ」が捉えていた。
それは、天井に設置された「監視カメラ」の一つで…
この監視カメラは「機関銃」とも呼べる姿をしていた。
その様は「機関銃」が、天井に張り付いているみだいた。
小さな機械音を立てながら、機関銃は、右往左往に首を回す。
そして、ピタリ…と。
銃口の照準を、両者(重騎士とアントス)に定めた。
まだ、機関銃(監視カメラ)は、監視しているだけだ。
風のメイスは、想像以上に、彼の感情に応えてくれた。
メイスの返事が、凄まじい豪風と化し。
その力で、アントスと少女を守ってくれる。
豪風の力が、辺りの液体をも吹き飛ばす。
激しい水しぶきの音が、空間にて響き渡ってゆく。
瞬間、アントスは不思議な感覚を掴んだ。
そう、この豪雨を、風のメイスを「操れる」と確信したのだ。
この嵐が、自分の手足のように感じられる。
風のメイスを、慎重に振り上げ、兜割りの如く縦一線…
すると、彼のイメージ(思惑)通りに、豪風が重騎兵に襲いかかった。
豪風のスピードは、まさしく疾風。
反応する暇もなく、重騎兵は豪風に飲み込まれた。
ギン、ギン、ギン。
激しい金属音が響き渡り、手ごたえを感じるアントス。