140話・13番目の重騎士
アントスは咄嗟に、隠れる場所を探した。
だが、そんなに都合よく「隠れ場」など、ある筈もない。
ゆえに、躊躇しながらも、ガラスの筒の影へと潜んだ。
ギャッ!ギャ!ギャッ!
ギャッ!ギィン!!
荒々しい打撃音と共に、向かいのドアが、粉々に粉砕されてしまう。
一体「何者」の襲撃か?
筒の影から、アントスは慎重に、様子を伺ってみた。
すると、その先には。
およそ2mほどの体格を誇る「騎士」。
いいや…「重騎士」が立っていた。
そして、重騎士の肩フレームには「13」の記されていた。
重騎士の存在は、かなり有名であり。
その知名度は、一般人の彼が知っている位だった。
重騎士の武勇伝は、かつて勇者と並び…
世界を救った、偉大なる先鋭たちとして、語り継がれてきた。
それに、彼ら(重騎兵)の腕力は、ゴーレムさえも凌駕するとか。
だが、しかし…
今、この場にいる「重騎兵」は、逸話の姿とはかけ離れていた。
戦車のような鎧を身に纏い、フラフラとよろめいている。
ゆえに、アントスは、この重騎兵が「感染」していると予測した。
何故なら「緑の液体」が、重騎士の兜から漏れており…
「13」と記された肩も、荒々しく揺れていたからだ。
アントスはこれまで、幾多もの感染者を見てきた。
一目見れば「感染」の有無を察知できる。
まともにやり合っても…敵わない事は明らか。
ここは、身を潜めて、やり過ごすのが正解だろう。
と、考えてみたものの…
相手(重騎兵)の方が、予想外の暴行に出た。
「ルゥオオオオオッズゥゥ!」
狂気の叫びを上げながら、重騎兵が、狂犬の如く暴走する。
ハンマーのような拳を振るい、目の前に映るモノ全てを殴りつけた。
ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン。
合鉄の狂犬が、ガラスの筒を、次々と砕いてゆく。
無慈悲に破壊される、ガラスの筒…
これにより、液体に濡れた…少女たちが、床にこぼれてゆく。
小さい体は、ピクリとも動かず…
床に落ちた少女たちは、まるで…使い古された雑巾のようだった。
冷たい床に横たわる、儚い命。
この残酷な光景を、アントスは、唇を噛みしめながら傍観した。
重騎兵が、拳を振るう度、ガラスの割れる音が響く。
そして、瞬く間に…20以上の筒が、破壊されてしまった。
ガラスの筒が割れ…液体によって、床がグショグショになった。
液体の刺激臭が、鼻を突いてきて…
きつい臭いのせいか?残酷な光景のせいか?
涙と鼻水が、滝のように溢れてくる。
重騎士は、第一章の3話~6話にて登場します。




