13話・騎士団は平原を歩く
荒々しい風が吹き、芝生が揺れていた。
目線の果てまで、緑の平原が続き、木の一本すら生えていない。
この平原の名は「ドレッド平原」…
エルフの都マシュルクから、北東に数キロ、離れた区域にある。
ここ(ドレッド平原)では、滅多にモンスターは出没せず。
いるのはせいぜい、ウサギか小鳥くらいだ。
危険の少ない領域ゆえに、貿易の通路として扱われ。
この緑の平地を、積み荷を乗せた、多くの馬車が行き来してゆく。
そして、また一台の馬車が、芝生の上を歩いてゆく。
古びた荷車を、引っ張りながら、トテトテと歩く馬。
その荷車の上で、衣服が山のように積まれ。
馬が進むたび、衣服たちが、心地よく揺れていた。
積み荷はどれも、何ともない、平凡なモノばかり。
こんな馬車を、とある騎士団が護衛していた。
彼らは、「ディアトロ騎士団」。
この騎士団のメンバーは、リーダー、剣士、弓兵、魔術師、計4人で結成されており。
「ディアトロ」という大男が、この騎士団の頭なのだ。
彼らは、馬車に並列しながらついてゆく。
頭のディアトロが、馬乗りの承認と雑談を楽しんでいる。
「これじゃ、退屈なギルドって、言われちまうな」
商人の男は、笑いながら言い返す。
「実際、その通りだろ?まあ、安心しろよ、来月にはきっと、狩りができるさ」
二人の会話通り、ここ最近、確か…3ヶ月ほど前から。
「モンスター系統」の依頼が、めっきりと減っていた。
これまで、頻繁に出没していた、モンスターたちが。
まるで霧に隠れるように、静まっているのだ。
とても不気味な現象だが…
モンスター討伐を、生業とする職業としては、痛手以外なんでもない。
今ある依頼と言えば、戦いから遠いモノばかりで。
この「馬車の護衛」だって、現在受けられる、唯一の仕事なのである。
多くの戦士や勇者は、この不景気が終わると信じており。
狩りシーズンの到来に向け、準備をしている騎士団も多い。
だからこうして、ディアトロ騎士団も、積極的に活動している。
「しかしな。ウサギ一匹もいない」
弓兵のロイドが呟いた。
「風も騒がしい。空気も乾いています」
魔導士のソエフが、空を見上げながら、遠くを見渡す。
「みんな(動物たち)、この平原から、逃げたのでしょうか?」
魔導士の言葉を、鼻で笑いながら、弓兵のロイドは。
「ゴブリンでも、来てくれたのか?」
「なら、いいのに」と、吐き捨てながら、ロイドはしぶしぶ歩く。
そして、馬車の後方にて、一人の剣士がついてきていた。
この剣士は、金髪の女性で…耳が尖っており。
尖がり耳は、エルフ族の特徴であり。
エルフの剣士「リピス」は、まだ若い女性だが。
ディアトロ騎士団のエースでもあり、指折りの実力者だ。
緑のドレスに、上半身だけの甲冑。
彼女の装備は単純だが、扱う武器は「風のメイス」という。
使い手を選ぶ、ユニーク・ウェポンを、自在に使いこなす。
そんな彼女の背中に、一人の一般人がついてゆく。
そのモブ(一般人)の名は「アントス」…
アントスは、この騎士団の雑用であり、メンバーとしてはカウントされていない。
戦えない彼の役割は、どこにでもいる、ただの荷物持ち…
大きな、リュックを背負いながら。
今日もまた、長い道のりを歩いてゆく。