137話・「守る」喜び…
激しい、砂埃を立てながら。
硬い地面の上を、フラムの体が転がってゆく。
その衝撃によって、アントスもまた、宙に放り出されてしまった。
アントスも地面に墜ち、意識がボンヤリする。
だが、凄まじい勢いで、墜落したにも関わらず、
彼の傷は、擦り傷程度で済んだ。
一体、どこに落ちたのか?
視界の悪いガスマスクの中から、周囲の状況を探ってみる。
すると、緑の霧にボンヤリと、一軒の建物が浮かんだ。
巨人の近くに、シュタハスの姿は、見当たらなかった。
つまり、彼女は…
研究所の室内へ、避難しているのかもしれない。
素人のアントスでは、研究所の構造は、見当もつかないし。
あの建物が、どこに繋がっているのか?予想すらも出来なかった。
だが、今の選択肢は少ないし、迷っている暇もない。
しかし…
何よりも心配なのは、共に墜落したフラムの事だ。
たとえ霧の中でも、ドラゴンの巨体は、簡単に見つかった。
霧の向こうで、フラムは倒れ…血だらけ。
急いで駆けつけ、言葉に詰まるアントス。
かつて、天をも震わせた、偉大なる翼は、使い古された雑巾のようで…
今の彼に、意識はあるのだろうか?
虚ろな目で、宙を見ながら、ただただ血を流していた。
アントスには、何と…言葉を投げかければいいのか?
分からぬまま、唇を噛みしめながら。
沸き出る悔しさに、肩を震わせた。
一目見て分かる…
自分を庇って…墜落の衝撃を、フラムが全て請け負ったのだ。
烈火のドラゴンは、墜ちる瞬間まで、一般人を守った。
いつも自分は、助けて貰ってばかり。
自分の無力さが情けなく、アントスは俯いてしまう。
すると…フラムが、消えゆくように呟いた。
「ずっと、ずっと…」
「壊す事しか…出来なかったんだ」
ゴホッ、ゴホッ…と血を吐きながら。
「なあ…ぐ…ら……す」
「『守る』ために、戦うって…」
静かに、思いにふけりながら。
「悪くない…な…あァ」
ここまでの道のりに満足して、フラムはもう、動かなくなった。
かつて、世界を震わせたドラゴン…
その静かな最後を、アントスは見届けた。
「僕は、ただの『荷物持ち』」
「戦士でも、勇者でもない。けど…」
力強く、無力な拳を握りしめて。
「君たち(ドラゴン)のバトンを、受け継ぐよ」




