132話・赤髪の少女
「いい子、いい子、だから…ね?」
そう、やさしく呟きながら。
シュタハスは、紅い要塞との距離を詰めてゆき。
ついに、要塞の一歩先まで接近した。
この要塞は、外見的に「植物」に近く。
赤色の幹が、無数に絡み合っていた。
そして、複雑に絡み合った、幹の隙間にて…一つの「空間」がある。
その空間を、彼女は、遠い視線で見た。
視線の先、空間の奥には…
「赤髪の少女」が…
たった一人、紅の蔦に包まれながら…
眉一つ動かさず、要塞の中で、佇んでいた。
沈黙を貫く、その姿は、まるで少女の石像のようだ。
シュタハスは、眠る少女へ、やさしく声をかける。
「アナタのお陰でね。ここまで、来れたんだよ?」
返事はなく、沈黙の間が流れるのみ。
「すぅー」
小さなお腹で、一呼吸置いてから。
「ふぅ」と、小さく呟いた。
そして…この静寂を狙い、一気に飛び出してゆく。
力の限り手を伸ばす、その先には「注射器」。
そう、彼女の狙いは、ソレ(注射器)の回収にあった。
だが、細い指先が、注射器に触れる瞬間。
ヒュッ!
鋭利な風が、彼女の頬を掠める。
このとき…頬の真横を、針のような触手が通過。
この一手こそ、まさしく「敵意」の現れだった。
触手の猛攻が、何処からともなく、シュタハスに襲いかかる。
天然パーマの頭を、咄嗟に下げてから。
触手の襲撃を、紙一重で回避する。
その勢いに乗って、注射器へ飛びかかった。
両手で、プラスチックの容器(注射器)を回収。
勢いを殺さずに、標的に向かって走る。
黄金の瞳が捉えるは「赤髪の少女」…注射を握りしめ、急接近してゆく。
彼女の行動に、要塞の動きが急変。
蔦が次々と現れて、行く手を阻む壁となった。
この壁により、赤髪の少女のいる「空間」が縮まっていく。
みるみる遠ざかる、赤髪の少女。
シュタハスは、小さなその手を、少女の方へ伸ばした。
無論、少女は石像のように沈黙して、何も反応してくれない。
だが、その代わりに…
ドッ!スッ!
シュタハスの右脇腹に、激痛が走った。
その痛みに釣られて、右脇腹を目視すると。
アイスピックのような触手が、シュタハスの脇腹を貫いていた。
触手に攻撃されて、その小さな体が、後方へと吹っ飛んでゆく。




