131話・白い地平線
今回の『注射器』は、第一章の「開幕」にて登場しています。
触手の圧倒的な力に、横転してしまう巨人。
山脈のような体が、地に落ちて…
ドォオオン!という、衝撃音が響いて、緑の霧が揺らぐ。
巨人が倒れた位置は、ドームの間近…
その衝撃によって、ドーム周域の霧が晴れる。
そして、水の巨人が、倒れると同時に…
巨人の右手が、紐解かれてゆく。
視界が一気に広がって、シュタハスは、黄金の瞳を丸くする。
突然、拘束から解放されて。
彼女の小さな体が、毛糸のように、宙へと放り出された。
「ふぅ!わあ!」
裏返った声と共に、下の世界へ急降下してゆく。
この高度から、落ちてしまえば、ただでは済まない。
きっと、落ちたと同時に、彼女の体は木端微塵だろう。
しかし…
たとえ、そうだとしても。
ゆっくりと目を閉じて、彼女は、行く末を受け入れた。
だが、その覚悟とは裏腹に。
何やら、柔らかな感触が、シュタハスの背中を受け止めた。
やんわりと舞う、白い花弁たち。
この感覚も、この肌触りも…馴染み深く懐かしい。
懐かしい香りに惹かれ、目を開けるシュタハス。
その先には、純白の花々が、咲き乱れていた。
見渡す限り「白い花壇」が広がってゆき
白一色の世界が、彼女の視界を、覆い尽くした。
そして…白い地平線の果てに。
何やら「赤色の物体」が佇んでいた。
シュタハスには分かる…ソレ(赤い物体)が、紅い触手の主だと。
ソレの風貌は…「要塞」の名に相応しく。
触手の主は、遠くからでも、圧倒的なスケール感だった。
この要塞の性質は、植物の根を連想させるが。
無数の蔦が絡み合って、血管の如く複雑にみえた。
触手の多くは、ドームの上へと伸びてゆき。
ドームの天井は、風穴だらけだった
触手の殆どが、屋外へと、出て行っており。
花壇の一帯だけは、わりと余裕があった。
この隙に、シュタハスは、純白の絨毯を歩く。
やんわりとした「黄金の瞳」は、ただ一点に、集中を定めていた。
彼女の目に映るのは…「一本の注射」。
そして、プラスチックの容器に、青色の液体。
ピカリ…と輝く、銀色の針先は、人目で分かった。
彼女の目的は、この「注射器」にあるようだが…
運が悪いことに。
注射器があるのは、紅い要塞の目先…
彼女が近づいてきても、触手は「まだ」襲ってこない。
一応…今の所「外敵」とは、認識されていないらしい。