１２８話・頼りない翼
アントスの意識が戻ったとき…
何故だか、ゴブリン（レ二ズ）の姿は消えていた。
そして、二人が、窮地に追い込まれる。
二人を睨みつけ、グラスが、冷たい殺意を燃やす。
二回目の必殺技を、まともに喰らってしまい。
フラムの体から、滝のように、血が溢れてゆく。
だとしても…フラつきながら、彼はアントスの盾となった。
フラムが「生きている」のは、もはや偶然。
そんな彼に…かつての友に、グラスは容赦なく、更なる追撃を試みる。
だが、しかし…
「おいッ！」
「冷やしトカゲ！こっちだぜ！」
グラスの背後から、大きな声が煽ってきた…
「トカゲの共喰いかあ？！寒いのは、名前だけにしときなぁ！！！」
その捻くれた「煽り口調」は、レ二ズの声に違いなく。
煽りに釣られて、グラスの標的が、レ二ズにへと移った…
水晶の目玉が、小汚いゴブリンを捉える。
「ガァアアア、アアアア！」
冷たい狂気の叫びで、天井を揺るがして。
グルリと…体を捻ってから、レ二ズに殺気を向けた。
レ二ズが囮になった事で…
二人は、何とか一命をとり止めた。
この隙に、アントスは行動をする。
左脚の重傷は、すっかり元通り。
それどころか「六華の種」の力で、全ての傷が消え失せていた。
体の奥から力が溢れ、足取りも軽快になる。
アントスは、瀕死のドラゴン（フラム）の元へ駆けつける。
血塗れのドラゴンを、見上げて…次の行動を考えた。
だが、先に動いたのは、フラムの方だった。
ズタズタのボロボロに、傷ついたその体を、ゆっくりと沈めてから。
アントスに、虚ろな視線を送る。
そして…
「乗れ…」
だった一言、消えゆく声で、合図を出した。
死にかけのドラゴンに乗る…アントスは、僅かに食い下がるが…
緊張した唾を飲んで、力強く頷いてみせた。
ここまで、これたのは、仲間たち（モンスターたち）のお陰。
ならば、ここで…彼ら（モンスターたち）を信じせずして、どうするのか？
その信頼を抱えたまま、フラムの背に、全力で飛び乗った。
このとき、ビチャっと…
血の生温い感触が、足元から伝わってくる。
それでも、仲間を信じて、血だらけの鱗にしがみついた。
フラムは、一般人を背に乗せて。
竜の眼…通路の果てにある「飛び台」を、まっすぐに目指した。
薄れゆく視界の中でも、この飛び台だけは…
夜空へと伸びる、この飛び台だけは、ハッキリと認識することができる。
「いっ…いく、ぞ」
ボタボタと血を吐きながら、高台の上に立つ。
そして、夜空に向かって、力の限り翼を広げてみせた。
その翼は、惨く傷ついて…まるで引裂かれた、雑巾のようだった。
現実的に考えて、とても「飛べる」状態ではない。
だと、しても…アントスは、フラムの背から降りはしない。
「ああ、いこう。フラム…」
