123話・初めてのパーティーはモンスター
レ二ズの手助けのお陰で…
アントスは何とか、昇華階段の頂上まで、辿り着くことができた。
だが、しかし…
辿り着いた先には、想像を絶する光景が、待ち受けていた。
グチャ、グチャ、グチャ
グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ
そう、感染クモの群れが、一匹の「巨大クモ」を、貪り喰っていたのだ。
ワイズ!!!!
喰われている「巨大クモ」を見て、アントスの怒りが、込み上げてきた。
もうすでに、今のワイズは、原型を留めていない。
彼は…ピクリとも動かず、ただの肉片となっていた。
アントスは、怒りに身を任せ。
風のメイスを構えてから、感染クモの群れを睨みつけた。
だが、一歩踏み出した途端、アントスの視界が歪んだ。
左脚が痺れ、ガクリと、体から力が解けてしまう。
激しい痛みにつられ…
左脚の膝を見てみると、糸の包帯が、真っ赤に染まっていた。
きっと、感染クモに襲われたとき、傷口が悪化したのだろう。
血が包帯に染み込んで、赤い水たまりが、足元に広がる。
そして、出血によって、アントスの体が崩れた。
そのとき…
彼の肩を、レ二ズが支えた。
「おら…いくぞ?…」
さも当然かのように、レ二ズは、竜の眼を目指してゆく。
相方「ワイズ」の最期など、見向きもせずに…
しかし、アントスには、彼を置き去りにするなど、出来る筈もなく。
「まって、くれ。ワイズッ!ワイズ…は?」
苦し紛れに、レ二ズを、引き止めようとするが。
灰色のゴブリンは、尖った視線で、アントスの目を覗き込む。
「どうしようも、ねえよ…クソッ」
怒りで声を震わせながら、ぶっきらぼうに言いかえす。
「とっくに逝ってんのさ…アイツは」
たとえ、友の死であっても。
レ二ズは振り返らず、目的を果たすために進む。
「奴らは食事に夢中だ…今しかチャンスがねえ」
ただの男を「アントス」を竜の眼へ、連れてゆかねばならないのだ。
レ二ズの真剣な表情に、アントスも心を決める。
感染クモ立ちは、ワイズを喰うので夢中。
今のところ、二人の存在に、気づいていない。
仲間を、友を、餌にして…振り返らずに、竜の眼へ突き進む。
振り返ってはならない。
ワイズの死が、無駄になってしまうから。
この悲しみを背負い、アントスは初めて自覚した。
一般人の自分と、同等に並んでくれた存在を。
そう…奇妙なことに、初めてのアントスの「戦友」は。
戦士でも、魔術師でも、勇者でもなく…モンスターだったのである。
失って初めて気づく、その尊さに、アントスの瞼が熱くなる。
だとしても、戦友を思うなら、涙はいらない。
その死を背負って、歩く事こそ、荷物持ち(アントス)の戦いだから。




