122話・灰色の手
途端に、銀のロープが、動きを止めた。
アントスは、ロープに摑まりながら、感染クモと交戦していく。
風のメイスを、振り回していれば、敵から距離を保てる。
あとは、ロープを昇り続けるだけ…
だが、しかし…
もう、銀の糸は、力を失っており。
焦りながら、アントスは、ロープを自力で昇ってゆく。
そして、なんとか、階段の頂上へと近づいていた。
ワイズが…上で待っているはず。
一刻も早く、ワイズと合流して、脱出しなければ…
今のアントスは、銀の糸へと、全集中を傾けていた。
手を動かす度、体を動かす度、銀の糸に負荷が掛り。
ビシビシ、と…嫌な音が、聞こえてくる。
これ以上、糸に触れれば、どうなるか?分からない。
しかし、止まってしまえば、感染クモの餌食にされてしまう。
そうと分かれば、昇り続けるしか、選択肢はなかった。
アントスは意を決して、昇るペースを上げてゆく。
間髪入れずに、手を素早く這わせる。
一、二、一、二、一、二
心の中で数えながら、頂上だけを見上げる。
そして、ついに。
階段の頂上まで接近して、手が届く距離に差し掛かった。
だが、このとき…
ポタッ…ポタッ…
頭上から「赤い血」が、滴り落ちてきた。
その生ぬるい血が、頬に触れて、アントスの口が無意識に開いた。
「ワイズ?」
ワイズからの返事はなく…その代わりに。
プッツン…
彼を支えていた、銀の糸が、呆気なく途切れてしまう。
銀のロープが切れ、アントスの体が宙に放られる。
「あっ」
終わった、と思った…そのとき。
銀の糸ではない…灰色の細い手が、アントスの手を掴んでいた。
間一髪、彼を掴んだのは、灰色のゴブリン「レ二ズ」。
彼(レ二ズ)は、階段の上から、上半身を乗り出し、アントスを掴んでいた。
どうやら、レ二ズは一足先に、昇華階段を昇り切っていたようだ。
「れっ、レ二ッ!」
レ二ズに救われ、驚いてしまうアントス。
動揺する彼に、レ二ズが「シー」っと。
静かに(隠密)にするよう、合図をした。
そして、その細い手で、アントスを「静かに」引き上げる。