120話・ブラ!サガリ!作戦
アントスは一人…
頂上の見えない、昇華階段を傍観していた。
階段は長く、中央の空間を、囲むように上昇してゆく。
その様はまるで、竜巻のようだ。
階段の最下部から、アントスは息を潜めた。
とてもじゃないが。
怪我をした脚で、階段を昇り切るのは難しい。
一応、ワイズから治療してもらったが、所詮は「応急処置」でしかない。
そして、階段の至る所に…
「緑色」のクモの巣が、見渡す限り広がっていた。
緑色のクモの巣は、色は違えと。
ワイズが造りだす形と似ており、サイズ(大きさ)だって同格だ。
そして、この緑の膜(緑のクモの巣)、隙間をすり抜けながら。
銀の糸が「また」アントスの頭上に降りて来た。
作戦どおり!
心のなかで頷くと、アントスは、銀のロープにしがみつく。
銀のロープは、彼の体重を感じると、静かに上昇し始めた。
傷ついた脚を、ぶら下げながら。
少しずつ確実に、上へ上へと向かっていく。
そんな中、アントスは、ワイズとの作戦を思い返してみる。
彼の話によると。
昇華階段はすでに「感染クモ」によって、陥落しているらしく。
しかも、相手は全て、ワイズと同種の「巨大クモ」らしい。
相手が同格なら、力も俊敏性も、彼と匹敵する上に。
ワイズの予測だと…相手(感染クモ)の数は、十匹をも越えている。
自分と同等もしくは…それ以上の敵が、立ち塞がるのだ。
安易な立ち回りは、絶対に許されない。
ゆえに、怪我人を、背負ったまま…
高速で動く、クモ集団を振り切るのは、ほぼ不可能に近い。
だから…
几帳面さが取り柄のワイズは、最も安全かつ、確実な作戦を選んだ。
その作戦が、この状況…
ワイズが先に、螺旋階段を上ってから。
「銀の糸」でアントスを引き上げる…という手順となる。
ロープ(銀の糸)に掴まるだけなら、脚の怪我も関係ない。
一見、間抜けな作戦だが。
これが、最良の選択なのかもしれない。