11話・ゾンビ?いいえ、Pウイルスです
コントロール室にて…
司令官のヒュドールと、研究者のヘルツ博士が、互いに睨み合っていた。
ついさっきまで、ここ(コントロール室)には、多くのスタッフがいたのに。
もう、この二人以外は誰もいない。
ざっと二百機以上あった、バックの液晶スクリーンは、一斉に機能を失っており。
液晶の画面にずっと、灰色の砂嵐だけが流れていた。
ヘルツ博士は、目を細めて微笑むと。
「みんな、いっちゃったけど。どうする?」
その淡々とした口調に、二人の空気がさらに尖った。
指揮官であるヒュドールは、悔しそうに唇を噛みしめながら。
「アイツらは何だ…ゾンビの類か?」
博士を睨みながら、絞るように問う。
「さあて、どうだかね」
いい加減な返答をするヘルツ博士。
それでも、ヒュドールは指揮官として、答えを求めた。
「感染の経路は?」
「いたって単純さ。血液感染…つまり、噛まれたり、引っかかれたりーとか」
冷淡に続く博士の説明を遮り、ヒュドールは大きく怒鳴り上げる。
「感染の根源は!あの花壇か?!」
「うん」
博士には気にした様子もなく、当然のように肯定した。
「くそったれ…」と、ヒュドールは怒りに任せて、机をぶん殴った。
そんな彼に構わず、ヘルス博士は、つらつらと説明を続けた。
「恐らく、新種ウイルスのせいだろうね。そうだな、『プラント・ウイルス』とでも呼ぼうか」
「ああ…そうだ」
博士は閃いたように、ポンと手を叩くと。
「プラント・ウイルス…略して『Pウイルス』ってね」
彼は思いつくまま。
「Pウイルスかぁ~うん、いいね」
この感染ウイルスを、そう呼んでみた。
だが、ヒュドールにとっては、感染ウイルスの名など、どうでも良かった。
彼の頭にあるのは、研究者に対する憎しみだけ。
「お前ら(科学者)のせいで、部下が死んだんだぞ」
怒りで震える、ヒュドールの声。
「酷い。こじつけだなぁー、自然に現れたウイルスかもよ?」
軽々しい表情で、ごまかす博士。
「黙れ」
もうヒュドールには、殺意しかなくて。
頭の中すらも、部下を失った責任で満杯だった。
この感染ウイルスを止めねば…
この脅威(Pウイルス)は絶対に、外の世界に出してはならない。
「やってやる。一人で、止めてやる」
決心するように呟きながら、ビシッと博士に指をさす。
「オレは、お前ら(研究者)を許さない。とくにヘルツ!アンタだけは…」
「必ず絶対に!叩き潰す!」
そう言い残して、ヒュドールは、コントロール室を後にした。
きっと彼は、「白い花壇」に向かうつもりだろう。
プラント・ウイルスを、食い止めるために。
この研究所の悲劇を、外の世界に広げないために。
司令官のヒュドールが去り、コントロール室がガランと空く。
ヘルツ博士は一人残り、ウットリとした眼差しで、空虚を見つめると。
「お目覚めかい?フロラシオン…」
囁きかけるように「何か」の名を呼んだ。




