119話・この先には「悲しみ」がいる
危機一髪…
アントスは、窮地を免れることができた。
一人と一匹が戻り。
ガランとした空気だけが、保管庫に残されている。
ついさっきまで、感染スライムだらけだったのに。
スライム全員が、一つに合体して…
下の階へと、落下したせいで、一匹すら残っていない。
お陰でアントスは、傷の治療に、専念することができる。
棚を背もたれにして、荒々しく息を吸い、左脚の膝に集中した。
ワイズがテキパキと、彼の傷を治療してゆく。
クモの糸が、包帯のように巻かれて。
少しずつ、出血も和らいで…傷の状態も安定した。
まあ、治療と言っても。
応急処置の範囲でしかなく、苦し紛れの手段でしかない。
ゆえに「歩く」ことは出来ても…「走る」ことは難しい。
アントスは、棚に寄り掛かりながら、何とか立ち上がると。
「悪い…色々、引っ張った。さあ、行こう」
傍らにいる巨大クモ(ワイズ)に、出発の合図を出した。
だが、ワイズの方は、何やら思い詰めるように、考え込むと。
真剣なトーンで、状況を説明する。
「この先を進めば、昇華階段に着く」
「階段を上がったら、すぐに竜の眼だ…けれど」
「けれど…」という後付けに、アントスは、嫌な予感を覚えた。
そしてあっさりと、その予感は、的中してしまう。
「感染者だらけ、なんだ」
言わずとも分かる、当然の事実だが。
その声にはどこか、悲しみが含まれていた。
「レ二ズは、先に行ってる」
「こちらも、作戦を立てていこう…」
そう告げてから、ワイズは、アントスを背中に乗せると。
保管所の先へ続く、薄暗い廊下を進んでゆく。
目指すは「昇華階段」…竜の眼に連なる唯一の道。