118話・戦友よ…聞こえるか?
岩石のゴーレム「ゲイル」は、四章の83話にも登場します。
だが、ゴーレムの拳は…
彼の手前で、ピタリ…と止まっていた。
状況を、よく見てみると。
銀幕の壁が、アントスを守っており。
「クモの…巣?」
その反応の通り。
銀幕の壁は、クモの巣そのもので。
大きな盾となって、彼一人を守っていた。
大きなクモの巣は、ゴーレムの猛攻を、容易く吸収しながら。
辺りの地獄から、無力な男を保護している。
すると、頭上から「ワイズ」の声が降ってきた。
「こっちだ!ボケッとするな!」
その声に気づいて、自分の真上を見上げてみる。
激しく崩壊した天井、そこには、大きな穴があった。
この穴は、スライムと自分が、落ちた痕であり。
その上の階(保管庫)から、ワイズが覗き込み。
下にいるアントスに、助け船を出している。
口から銀色の糸を、ロープのように垂らして…
「ソレ(銀の糸)に掴まれッ!」
迅速に慎重に、アントスの手前まで、銀の糸を伸ばす。
こうしている間にも。
ゴーレムの荒々しさが増し、どんどん損傷するクモの巣。
クモのワイズは、暴れる「岩石のゴーレム」を睨みつける。
「ゲイルッ!!お前ッ!」
「ゲイル」というのが、このゴーレムの名らしいが…
今となっては、同志の声は届かない。
「はやくしろッ死ぬぞ!!!」
ワイズに一喝され、咄嗟に銀の糸にしがみつく。
同時に、クモの巣が限界を迎え、木端微塵に崩れ去った。
「ガァァアアアアアア!」
邪魔が無くなり…
感染ゴーレム(ゲイル)が、嵐の如く突進してくる。
だとしても、アントスの方が、僅か一瞬だけ早い。
一足先に、ワイズに引き上げられて。
ゴォオオオ!と、ゴーレムの拳が、足元を通り過ぎた。
もう少し遅かったら?
悪寒を感じて、糸を握る手が震えてしまう。
そして、銀の糸が上がると共に。
アントスの高度は上昇してゆき、ゴーレムもオークの姿も小さくなった。
クモのワイズは、人間を救出しながら。
かつての戦友だった…感染ゴーレムを見おろした。
「なあ、ゲイル」
「せっかく、名前を貰ったのに」
「こんなのって、やりきれないよ…」
かつての戦友には、もう。
誰の言葉も、届かないだろう。