112話・スライムが現れた!
レ二ズは以前、この保管庫を、管理していた事があった。
ゆえに、辺りが暗くとも…
ある程度の構造は、記憶補正で何とかなる。
ただ…ボトン、ボトン、ボトン、という鈍い音が気になるが。
手探りで、物置き棚から、マッチ箱を取ってから。
スムーズな手つきで、ランプのロウソクに火をつけた。
小さな灯りが、暗闇を照らしてゆく。
視界が広がり、二人を、目で追おうとしたとき。
露わとなった現状に、レ二ズは愕然とした。
天井から、大量のスライムが、落ちてきたからだ。
そう…さっきの物音は、スライムのモノだったのである。
だが、一番最悪なのは。
スライムたちが、濁った緑色に変色しており。
「感染スライム」へと、変貌していた事だった。
しかも、感染スライムたちは、何百匹も天井に張り付いており。
そのスライムの群れによって、天井全体が、緑一色に染まっていた。
ランプの灯りが、気づかれてしまい。
感染スライムたちが、次々と落ちてくる。
そして、蠢きながら、標的をゴブリン(レ二ズ)に定めた。
レ二ズは、自分の運の無さを、鼻で笑いながら。
逸れてしまったアントスに、注意を飛ばした。
「アントス!コイツらとは、戦うな!」
風のメイスを構えながら、アントスはギョッとした。
レ二ズの声が、聞こえたと思った矢先…「戦うな」だって?
感染スライムたちは、迫ってきているのに。
戦わないなら、一体どうすればいい?
一歩ずつ退きながら、大声でレ二ズに言い返す。
「じゃあ、どうするのさ?!感染スライムを枕にするの?!」
すると直ぐに、レ二ズの軽口が返ってくる。
「ソイツも悪くないが、スパイダー君を、待ったほうがいいぜ!」
だが、スパイダー君の方だって、苦しそうだった。
「駄目だ!こっちも、囲まれた!少しでいい、持ちこたえてくれ!」
最悪の展開に、頭を抱えるレ二ズ。
ただのスライムなら、何の障害にもならない。
だが、「感染スライム」となれば、話は違ってくる。
スライムの体質は、液体であるがゆえに。
性質状、感染症との適合率が高い。
だから、Pウイルスと、完全に一体化してしまった。
結果、本来の水色から…醜い緑色に、変わり果て「ウイルスの塊」と化す。
攻撃されたとき、基本スライムの体は飛び散る。
そのとき、スライムの断片が「緑の液体」として散乱してゆき。
もし、その一滴にでも、触れてしまえば…
感染者の仲間入り…という訳だ。
実際、モンスター勢の被害は、感染スライムによる例が最多で…
その脅威を、レ二ズとワイズは、目の当たりにしてきた。
ゆえに、アントスには、ただ「逃げろ」と伝えるしかない。
「とにかく、隠れろ!いいか、戦うなよ?!」
単調に、雑に、伝えて…レ二ズは相方との合流を図る。