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10話・赤い華の呼び声


 ようやく、ドームに辿り着く…

巨大かつ、余りにも広大。

いくら見上げようとも、球体の天井は遠い。

 

リオスは早速、侵入経路を探りだした。


 正面の入り口は「ガラス製の扉」…強固な造りで、ビクともしない。

このガラスのシャッターは「自動式」。

ゆえに…起動させるには、電力が必要だった。


 入り口さえ、突破すれば。

後に正面ホールに、踏み込めるし。

そこ(正面ホール)さえ超えれば「白い花壇」に着くはずだ。


 ゴール(目的地)は、そう遠くない。


だが、しかし…

感染者たちがやってくるのも、時間の問題。

ゆえに、迷っている暇はない。


 リオスは決心して、唯一の武器(椅子)を握りしめた。


「シュタハスよ…どうか、僕を導いて」


『何かの名前』を、祈るように囁いてから。


 立ち塞がるガラスに向かって。

ただの椅子を、棍棒の如く叩きつけた。


 椅子とガラスが衝突し。

激しい反動が、腕を痺れさせてくる。

強固なガラスに弾かれて、体勢が大きく揺らぐ。


「ぐっ…!」


想像以上の頑丈さに、焦りを覚えるリオス。


何度も、何度も、破壊を試みるものの…

そう安々とは、壊れてくれない。


ガラスの表面に、亀裂が走り…あと一押し。

だが、しかし…

その荒々しい音に、感染者たちの注目が集まってきた。


喰われて、死んで…たまるかっ!


「うおぉぉぉぉ!」


野獣の如く叫びながら、椅子をぶん投げる。


 ガラスの亀裂に、椅子が衝突して。

頑丈なガラスは、砂のように崩れていった。


透明ガラスの破片が、床に散乱して。

同時に、警報アラームが鳴り響いた。


ビィービィービィー


研究所全体にまで、警告音が響いてゆき。


 余りにも、大袈裟すぎるほど。

リオスは、目立ち過ぎた。


 当然、この騒ぎに乗して。

感染者たちの集会が、一挙に開催される。


もはや、一秒すらも。

止まっている暇など、許されない。


今の彼には、走り続けるしか…道はなかった。


 正面ホールを走り抜け。

ようやく、目的の「白い花壇」に到着…


今いくぞ!ブルーメン!


友を助けて、その先は?そんなこと…分からない。


 でもきっと、ここに…

白き花壇に『救い』があるはず…

そう信じて、花の絨毯を踏みつけてゆき。


そんなリオスを追って。

数百もの感染者たちが、花壇にへと押し寄せてくる。


 美しき花弁が、華麗に宙を舞う。

その美しさに、誰も見向きもせず…荒々しい時が進む。


 緊迫した状況にて。

リオスは「小さな木」の存在に気づいた。

その木の姿は、昼寝で見た「夢の断片」そのものであり。

ここまで来た、キッカケそのもの。


「ブルーメン!いるのか、そこにいるのか?!」


ブルーメンがいるという、根拠はない。


だが、それでも。

きっと答えがあると信じて、木の手前まで接近する。


すると、このとき「何か」の気配がした。

木の裏側に「誰か」がいる…


そう確信して、木の裏側を覗いてみる。

 

そんな彼を、待っていたのは。


 ブルーメンの武器、バスタードソード(大剣)だった。

大剣は地に突き刺さり、沈黙している。

あるのは武器だけ、本人の姿は見当たらない。


 ここには、友はいない…

そうと分かったとき、空っぽの虚無感だけが残った。

 あの夢は、ただの幻想に過ぎず。

これまでの努力は、すべて徒労だった。


だが、この瞬間…


 彼の耳元に「誰か」が囁いてきた。


それは、女の子の声、小さく静かな囁き。


 その「囁き」惹かれるよう…ユラユラと歩く。

歩む度に、囁き声は大きくなって。

同時に、リオスの意識が霞んでいった。


視界全体が、ボヤのかかった霧に覆われ。

その奥にて、一輪の「赤い華」があった。


 赤い華は、紅の輝きを放ち。

花と言うより…宝石とも呼べる、神々しさだった。


 美しき輝きが、リオスの意識を削り取り。


彼は、察する暇もなく、木偶の棒と成り果てた。


 理性を失ったリオスは…人形のように歩き。

廃人としての末路を背負い。

ひれ伏すように「赤い華」に、頭を垂れた。


 すると、このとき。

「フフフッ」という、少女の笑い声が響いた。


 

感染者の群れは、彼から標的を外し…

新たな獲物を求めて、ドームの外へ出て行った。


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