108・キチガイ三人組
クモのワイズは、いつでも準備万端。
二人(レ二ズとアントス)を乗せると、出撃の体勢に移った。
すると、傷だらけのドラゴンが呼び止めてきた。
「まっ!まて…」
フラムは、フラつきながら、やっとかっと立ち上がる。
「そんなモノッ!(六華の種)必要ない!」
「今すぐにでも、飛んでやるさ!」
炎の代りに、血を吐きながら、必死に豪語する。
「ドラゴンの死体なんざ、場所を取るだけだ。寝てな、ぼうず」
レ二ズは呆れながら、彼の熱意を一蹴すると。
適当な口調で、発進の合図をだした。
「さあて、愛しの我が家に、レッツゴー」
その口調は、ふざけているが、視線そのものは真剣。
背中の二人に、ワイズは淡々と言う。
「しっかり、摑まって。落ちても、拾わないから」
アントスは顔を引き締め、ギュッと、巨大クモにしがみついた。
失ってしまった…妻子の笑顔、温かな日々。
それはもう、二度と返ってこない「過去」。
その思い出を、胸に抱きながら…
哀れな一人の男は、醜い二体のモンスターと共に…
つぎの行き先、シュタハス神殿を目指してゆく。
フラムは、ただひらすら、同じ言葉を繰り返した。
「飛べる、とべる、トベル、飛べるんだよッ」
「飛べる」と、連呼し続けるうちに、感覚さえも麻痺してゆき。
僅かな電流が、体中に流れるような、錯覚を覚えた。
ボロボロの翼が、ピンッと張り詰め。
体の底から、小さな力が溢れてくる。
「やれるっ。飛べるぞ!」
いつものように、風の感触を掴み、翼を広げた…だが。
電源が落ちるかの如く、体の力が解けてしまう。
そして、呆気なく地面へと崩れた。
倒れたフラムに、治療兵のゴブリン兵たちが文句を言う。
「さっさと、オマエを治して、ズラかりてぇんだよ。手間かけさせんな」
「てかさ。アイツらヤバいよな」
「ああ…キチガイ三人組だぜ。ありゃ」
はは、ちがいねえ…と。
ゴブリン兵たちが、彼ら(アントスたち)の影口を叩いていた。
フラムは大人しく、治療を任せるフリをしながら、心の内で決心した。
あと「三時間」あれば…確実に飛べるようになる。
あと三時間、あと三時間…だ。