107話・つぎの行き先
当初、氷結のドラゴン(グラス)が、六華の種を授かった。
そのグラスが、相方に、種を託したことは…
神殿の生き残りなら、誰もが知っている。
と、言うことは。
フラムだけが、種の行方が分かるのだ。
レ二ズは、フラムの頭を、扉でも叩くようにノックする。
「トカゲちゃんよ。六華の種…どこにやった?」
ぼんやりとしたまま、烈火のドラゴンは、記憶を掘り返す。
「すまない。落とした」
構わずに、質問を続けるレ二ズ。
「どこで?トイレでか?」
「ちがう。『竜の眼』だ。グラスに、襲われた拍子に…」
竜の眼、が話題に上がり、ワイズとレ二ズに緊張が走る。
この張り詰めた空気から、アントスも、嫌な予感を覚えた。
彼は、竜の眼も、六華の種も知らない。
だが、二人の様子から、事の重大さを、何となく理解した。
レ二ズは一呼吸置いてから、相方に視線を移す。
その視線を、真っ向から受け止めるワイズ。
「ここまで来たんだ。引き下がる理由はないよ」
「かもな…」
捻くれゴブリン(レ二ズ)は、一言だけ返して。
短い手で、アントスに手招きをした。
「エセ勇者さんよ。次がどこか知りたくて、ワクワクしてんだろ?」
勇者もどきの男は、黙って頷き、ゴブリンの言葉に集中する。
「我らが、お友達の巣窟!」
「シュタハス神殿だ。よろこべ」
シュタハス神殿は、一般人のアントスでも…
ピンとくる程、有名なダンジョンだ。
それもそのはず。
この神殿は、モンスター勢の本拠地であり。
かつて、数多くのギルド(勇者たち)が、この神殿に挑戦していた。
アントスが所属していた「ディアトロ騎士団」だって。
シュタハス神殿の攻略を、目標にしていた。
これらの経験から、シュタハス神殿の事は、大体の予想がつく。
だが、「六華の種」だけは、初めてきく名前だった。
まあ、たとえ…
それが、どんなモノであっても。
彼ら(レ二ズとワイズ)と共に、進むことは変わらない。
アントスは、何も語ることなく、ワイズの背中へ跨った。
そんな肝の座った行動に、レ二ズは関心しながら、簡単に説明をする。
「竜の眼ってのは、神殿の最上階でなぁ」
彼もアントスに続き、ワイズの背に乗のり。
アントスの前に座ると、また減らず口を開いた。
「その種はな。まぬけトカゲに、必要なわけよお」
瀕死のフラムを救うには『六華の種』が必要だ、と。
レ二ズの皮肉は、遠まわしだが。
不器用ながらも、アントスに伝わっていた。
「彼の翼を、治せるんだろ」
「だったら、どんな詐欺でも、よろこんで」
そして、アントスもまた、気楽に冗談を返した。