102話・希望への轟咆
シュタハスは、荷車の中に侵入を試みて…
その小さな体で、何度かジャンプした。
もうちょっとで、忍び込めそうなのだが、あと一押しが足りない。
そして…
彼女の近くには、荷物持ち(雑用)の男がいて。
その男との距離は、わずか数歩程しかない。
ここまでの至近距離だったら。
何時、この男に気づかれても、可笑しくないだろう。
にも関らず、この男を…
シュタハスは気にして、その平凡な横顔を、覗き込んでいた。
そう、彼女が「荷物持ち」を気にしていた事も。
荷車に乗れない、原因の一つでもあった。
男(荷物持ち)の顔は、さして個性的でもなく、美形でもない。
世界の片隅にいるような、モブそのもの。
だが、それでも…
彼女には、この一般人が気になるらしい。
このままずっと。
このモブキャラを、眺めていそうな様子だったが。
つぎの瞬間…
グオオオオオオオオオオオオオオ!
烈火のドラゴンの唸り声が、平原の腹を殴りつけた。
まるで爆弾が落ちたように、地面が跳ね上がる。
この衝撃によって、シュタハスの小さな体が、フワリと宙に浮いた。
その拍子に、細い手を、荷台へとのばす。
そして見事…荷車の内部へダイブ、ようやく侵入に成功した。
荷車の中は、衣類や小道具が、ギッシリ敷き詰められており。
散乱とした荷物の山が、クッションになってくれた。
周りは、衣類ばかりで。
フワリ…と、黒い布が、彼女のアホ毛に被さった。
黒い布を、手に掴んでから、緩やかに広げてみる。
すると、この布が「黒色の頭巾」だと分かった。
「ふぅーん」
シュタハスは、この黒頭巾を、まじまじと見ながら。
「クロ…も、あり。かな?」
自らの白髪に、黒い頭巾を被せてみた…
フラムは、力の限り叫ぶと…
再び、シュタハスの様子を確認する。
どうやら上手く、荷車に飛び乗ってくれたらしい。
騎士団のヘイト(注意)は、フラムに集中しているし。
彼女が見つかる心配はないだろう。
このとき、騎士団の弓兵が、彼を狙っていたが…
主の安全が確保できたなら、これ以上、何もする必要はない。
シュタさま…
どうか、世界を…
あの黄金の瞳に…予言にあった「ただの男」に…
思いを託して、フラムは翼を広げた。
必ず、迎えに行きます。
心の中で強く誓い。
その広大なる翼を、羽ばかせながら。
破壊と烈火のドラゴンは、空の果てへと還ってゆく。