101話・騎士団と烈火のドラゴン
どうやら、シュタハスは、あの馬車に用があるらしく。
馬車に接近するよう、フラムに命令を下した。
上空からでは、気づかなかったが。
重戦士、白魔導士、弓兵、エルフ、四人の護衛がついていた。
そして、その隅には、荷物持ちの雑用が一人…
おそらく、騎士団か何かで…護衛の仕事の最中なのだろう。
荷車だって、そこまで強固な造りではなく。
上部をテントで覆っただけの、単純なモノであった。
こんな馬車に、彼女は、何の用があるのか?
正直、理解できなかったが…
フラムは、指示された通りに、平原へと降り立った。
そして、彼は、戦士たちの動向を見定める。
突然、破壊と烈火のドラゴンが降りてきて…戦士たちの血相が変貌した。
もはや完全に、戦士たちの意識が、一体のドラゴンに集まっていた。
殺伐とした空気が、臨界点まで突破して。
いつ、開戦の火ぶたが墜ちても可笑しくない。
ここからの展開など、フラム自身すらも分からない。
だから、背中の後ろにいる、主人の命令を待つ。
しかし、しばらく経っても、彼女の声はせず…
嫌な予感が、フラムを襲ってくる。
もしかして…と。
フラムが、自分の背中を確認した…瞬間。
見事、その嫌な予感が的中してしまう。
そう、彼の背中から、シュタハスの姿が消えていたのだ。
彼女は、どこに?
ドラゴン(フラム)は視界を動かし、彼女を必死に探す。
もし、シュタハスが、この戦士たちに見つかったなら。
一体、何をされるのか?考えるだけでも恐ろしい。
フラムは、白魔導士や弓兵、エルフと、順番に視点を動かし…
何とか、シュタハスの手がかりを探ろうとする。
戦士たちの敵意を、感じながら。
フラムは、馬車の方へと、視線を移した…その時。
彼は思わず、驚愕してしまった。
そう、シュタハスがこっそりと…
馬車の後ろに、忍び寄っていたからだ。
二本のアホ毛を揺らしながら、トテトテと、荷車に近づいてゆく。
そして、小さな手を伸ばし、荷台の中に忍び込もうとしていた。
しかし、この荷台は、彼女の頭一つ分高く。
小さな少女は、上る事にさえ、苦戦している様子だった。
だが、一番、最悪なのは…
その荷台の近くに「荷物持ちの雑用」がいる事だった。
シュタハスと、その雑用の距離は、5メートルもない。
と、言うよりも…
ここまで馬車に近づいたなら、戦士たちに見つかるのも時間の問題だろう。
しばし、沈黙が続き、戦士たちが様子を探り始めた。
まずい…シュタハスが、見つかってしまう!
もはや、迷っている暇など無かった。
フラムは、息を腹一杯に吸い込むと、大空を見上げた。