100話・ドラゴンは平原を飛ぶ
彼女の口から、エルフの都が挙げられて。
つい、フラムは動揺してしまった。
マシュルク(エルフの都)はかつて…
自分とグラスが、襲撃した領域の一つ。
つまり、破壊と烈火のドラゴンが、畏れられるきっかけとなった…始まりの地でもあった。
エルフや人類にとって、彼は恐怖の権化。
そんな存在が、戻ってきたならば。
きっと、エルフとの戦闘は、避けられないだろう。
しかも、こんなにボロボロな状態だし…
喉の傷のせいで、究極技すら、使うことができない。
こんな有様では、ろくに戦えない…と。
フラムは、背中の主に、場所を変えるよう提案した。
「エルフの領域は危険です」
「それに…貴方を、守り抜く自信が…」
心配するドラゴンの頭を、彼女は優しく撫でた。
「大丈夫、争いには…ならないよ?」
それにね…と、穏やかな風の中、言葉を綴ってゆく。
「マシュルクで、会えるんだよ…」
「会える?誰に?」
そう、素直に聞き返しながらも。
フラム自身「その誰か」の事は、何となく察しがついていた。
そして、お察しの通りの答えが返ってくる。
「勇者でも」
「戦士でもない」
「ただの、モブキャラ…よ」
耳にタコができる程、聞き飽きたセリフ…
かけがえのない友、グラスが信じた、再生の主の予言。
この予言に従う事が、果たして正解なのか?
正直、フラムには分からないし…到底、理解もできなかった。
だが、モンスターとしての「直感」に従ったならば。
きっと、あの「黄金の瞳」に、嘘偽りはないと…
根拠のない確信が、羽ばたく翼に、力を与えてくれる。
ゆえに、頭で感じるのではない。
本能的に、感覚的に、取るべき行動を選択するのだ。
それに、我が友が、死の瀬戸際にて…
まだ知らぬ「その男」に、未来へのバトンを、繋ごうとしたのだ。
一体、この事実以外に、なにがいるというのか?
「承知、飛びましょう。マシュルクへ」
傷ついたドラゴン(フラム)は腹をくくり、マシュルク目指して飛行してゆく。
しばらく、飛行してゆくと、とある平原に到達した。
この草原こそ、ドレッド平原…
人類やエルフが貿易を行う、貿易ラインの一つだ。
いつもは、沢山の動物がいるのだが。
ドラゴンの接近により、全ての動物が隠れていた。
さっきから、シュタハスは無言のまま。
真剣な眼差しで、この草原を、見下ろしていた。
そして、先程までの大人しさから一変。
宝物を見つけたかのように、声を弾ませる。
「いた!あんなところにッ!」
シュタハスが、とある一か所を指さす。
その先には、一台の馬車があった
見るからに地味な、ちんまりとした馬車だった…